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の「ハヤキタユキダルマカイ」が雪だるまの制作と発送を行なっている。この団体の代表者こそが当時の郵便局長である。退職後も雪だるまとともに人生を歩み続ける元郵便局長には感服するばかりである。申込みは通年受け付けているが、毎年、クリスマスシーズンにピークを迎え、雪が降らない沖縄や大都市圏の東京、大阪への発送が多いという。
「最近は暖冬化の影響で、安平町だけでは雪を確保できないこともあり、夕張市など近隣の雪を使うこともあります」と横谷氏。12月中に十分な量を確保できるかどうかが、分かれ目になるそうだ。
一方、返礼品としての雪だるまの需要はまだそれほど多くはない。しかし、雪だるままでもがれっきとした安平町民として愛され続けているこのまちの魅力を伝える上で、返礼品においても雪だるまを欠かすことはできない。雪だるまへの情熱はこれだけではない。なんと毎年8月には、1 ヶ月の期間限定で雪だるまの特別住民票を希望者に無料交付することも恒例となっているのだ(郵送での受付も可能)。
寄附金は寄附者の意向に沿って有効活用することが必須
「くらしの笑顔が広がる ぬくもりと活力と躍動のまち」をキャッチフレーズに掲げる安平町では、「合併してよかった」と思える安平町を目指し、4つのテーマ(町長におまかせを除く)に沿ったまちづくりを進めている。
安平町でも使途を指定した上で寄附できるが、特徴的な使い道に安平町を元気にするために“町民の町民による町民のための応援資金”と銘打った「まちづくりファンド」がある。ファンドと呼んでいるが、いわゆる何かに投資して収益を分配するようなものではなく積立金のことである。たとえば、平成31年開設予定の「道の駅」への移設を予定しているSL「D51」の保存や、地域に賑わいをもたらすサイクリング大会やメロンまつり、新しい特産品の開発支援などに活用される。使途を指定しなかった場合と、「町長おまかせ事業」を指定した場合はこの「まちづくりファンド」に積み立てられる。
また、安平町らしい事業といえるのが「ひとづくり事業」である。後継者不足が深刻化する農畜産の担い手を育てるため、農地代や農業機械などの初期費用がかさむ新規就農者の支援に活用する「新規就農対策事業」と、スピードスケートの銅メダリスト・橋本聖子氏の出身地としてのゆかりもあり、世界に通じるアスリートを育成する「トップアスリート支援事業」の2つの事業から成る。
寄附者にとっても無縁といえないのが、農業と直結する「産業づくり事業」である。
「畑はずっと同じ作物を作っていると痩せてくるので、緑肥を撒くと畑の栄養になります。また、栄養を入れておけばいい、というだけではなく、土壌分析を行った上で、窒素やリンなどの足りないものを肥料として入れるんです。こうした豊かな土壌を作るための費用もこの事業に含まれます」
寄附者が使途に「産業づくり事業」を選ぶということは、返礼品として受け取る野菜や果物の豊かな実りにつながり、寄附者のもとに安心安全、美味しさという形で還元されることだともいえる。
「寄附者に使途を選んで寄附していただいているので、まちとしては寄附者の意向に沿って有効に活用することが最大のテーマです」と横谷氏は言う。そもそも寄附金は恒久的な財源ではないため、あくまでもプラスアルファの収入と考えている。町長おまかせ事業を除くと、まちづくり事業にもっとも寄附が集まっているが、この使途にこれくらいの寄附金が欲しい、といった行政としての思惑もないそうだ。
寄附金の目標額について尋ねると、「まちとしては思っていた以上に集まっているので、特に設定していません。金額・件数ともに少しずつでも右肩上がりに増えていけば」と横谷氏は謙虚な姿勢を貫く。
感謝の気持ちを直接伝えるため寄附者限定の物産展を検討
安平町では、ふるさと納税の受入額実績については自治体サイトで公開しているが、現在のところ具体的な活用状況については報告ができていない。
「寄附金によって使えるお金が増えたことで、町民もコンサートの開催など、まちの活性化に意欲的になっています。しかしながら、自分たちのやりたいことが寄附金によって実現できている、ということがまだ周知されていません。寄附者は関東圏が多く、安平町とゆかりのない人がほとんど。それにもかかわらず、安平町を応援してくださっているので、今後は具体的に何にどれだけ活用されたかを公開することで、寄附者への信頼を高めていかなければ。これは喫緊の課題だと認識しています」
さとふるのレビューには、「返礼品の検索を通じて初めて安平町を知りました。これからは安平町を応援します」といったコメントが記載されることが増えてきた。こうした生の声は何よりも励みになる、と横谷氏は語る。
「寄附件数の数だけ応援してくれる人がいるのですから、このチャンスをどう活かすかは私たち次第。寄附金を原資として新たな返礼品を開発するなど、うまくお金を循環させながらまちの知名度向上とファンづくりに力を入れていきます」
感謝の気持ちを直接伝えるため、今後は寄附者限定の物産展を企画することも考えており、寄附者との交流の場を増やしていきたいという。
まちの伝統や地域資源を大切に 体験型返礼品の拡充を図る
今後の展望について、「送って終わりにはしたくない。安平町に足を運んでもらうために、体験型の返礼品を増やしていきます」と横谷氏。
2月のさっぽろ雪まつりの開催に合わせ、今年と同様に来年も「おためし移住」を返礼品に入れる他、新たな返礼品として「1 口馬主券」や「菜の花ウェディング」を検討中だという。
横谷氏が返礼品の開発に力を入れるのは、ふるさと納税をきっかけに、自分たちにとっては当たり前のものでも、都会の人にとっては魅力的に映るものがあることが分かったからだ。この気づきを活かし、来年度から実施される予定となっているのが「景観発掘事業」である。これは町民に安平町に眠る観光資源を提案してもらい、富良野や美瑛に負けない新たな景観スポットにしていこうという取り組みで、既存の観光施設と組み合わせた周遊を促進し、交流人口の拡大を図るという。
「観光協会と連携して進めている事業なのですが、観光協会に新しく入った方が旅行業の免許を持つ神奈川県からの移住者なんです。その方が安平町にやってきたとき、『札幌から近いのに、こんなに素晴らしい景色が見られるなんて』と言った言葉にはっとさせられました。道内を一度も離れたことがない私にとっては、新鮮な感覚でしたから」
まちの伝統や地域資源を大切にしてきた横谷氏の頭の中には、次なる返礼品の構想がしっかりと描かれている。
「平成31年に道の駅が開設される予定なのですが、道の駅で販売するために新たな商品を開発すると意欲的な事業者も多い。こうした商品も随時、返礼品に追加していきます」と横谷氏。当初は制度を知らなかった事業者にも、ふるさと納税の好調ぶりが伝わるにつれて変化が表れ始めた。
「立ち上げ時は事業者に参加を依頼して回ったのですが、それでも10品の返礼品を集めるのが精一杯でした。それが今では事業者から参加したいと申し出るようになり、70品にまで拡充しています」(横谷氏)。また、事業者から「寄附者が自社のホームページから注文してくれた」と喜びの報告を受ける機会も増えているそうだ。
「事業者の間でふるさと納税は重要な販路の一つとして認識されるようになり、自分たちが地域活性化に寄与していることにやりがいを感じているようです」(横谷氏)
ふるさと納税をきっかけに、事業者同士で情報交換をするなど、横のつながりも着実に強まってきている。
「道の駅開設に伴い、鉄道資料館にあるデゴイチ(D51)を移転させるので、SL関連のクッキーやミニチュアも開発したいと思っています。全国の“鉄ちゃん(鉄道ファンの愛称)”を安平町に呼び込めたら」と目を輝かせる。自身でも気づかない間に、横谷氏はふるさと納税を通じて、自治体の「運営」から「経営」へと意識が変わったようだ。