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2ページ 事例に見る、ふるさと納税 変わる自治体職員の意識 阿波市

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は「阿波市が認証したお墨付きの産品」であることを意味する、「証」という文字が入っている。

平成27年11月1日に第1回目の特産品募集を開始し、平成28年1月22日に市が育成した野菜ソムリエやJA関係者らによる審査会が開かれた。コンセプトや安心・安全への配慮、将来性など10項目から成る厳正な審査を経て、第1弾産品として10品目が認証を受けた。

若手農業者グループ「GOTTSO(ごっつぉ)阿波」(ごっつぉ=阿波弁でご馳走の意味)が生産する、独特の白く美しい外見と、熱を加えると果肉がとろけるような口当たりの良さが自慢の白ナス「美~ナス」、「月夜にひばりが足を焼く」といわれたほど農地が乾燥したため、米ではなく 小麦を栽培したことにちなみ、阿波市産小麦100%を使用した「ひばりのあしあとクッキー」など、希少種の野菜やストーリー性のある加工品が選ばれた。

これら10品目のうち、本格米焼酎「阿波山田錦」、「影山のはちみつ」、フルーツトマト「星のしずく」、トマトピューレ「ルナロッサ」、星のしずくゼリー「スタードロップ」の5品目が返礼品となっている。商品のブランド化においては、素材の良さはさることながらネーミングも重要な要素の1つ。認証品の多くは、商品のコンセプトを的確に表現しながらも、覚えやすく、人に言いたくなるような商品ばかりである。

証品の希少なトマトが返礼品の主力商品に成長

平成28年2月29日、阿波市によるふるさと納税の本格運用は5事業者、16品目からスタートした。「開始から約半年で、前年度を超える寄附金額が集まっています」と語るのは、企画総務課 主任の坂東征二氏。平成25年度は寄附件数88件、寄附金額265万円(平成26年3月31日集計分)だったが、その3~4倍ペースで増えているという。

阿波市の最大の強みである農畜産業を活かすため、返礼品には牛肉や米といったいわゆる人気の返礼品も含まれるが、「通販サイトのようにして、多額のお金を集めることは考えていない」。寄附金額の多さ は自治体に対する通信簿ではないという認識のもと、地に足の着いた取り組みとするため、寄附金額の設定は、「1万円以上」と「3万円以上」という無理のない2つの区分のみとしている。

順調なスタートを切ることができた要因の一つには、ふるさと納税サイトを通じて阿波市の最大の強みである農畜産業をアピールし、人気の返礼品が誕生したことが挙げられる。現在、肉や米と肩を並べるほど多くの申し込みが入り、阿波市の主力商品となっているのが原田トマトが生産するフルーツトマト。特産品認証を受けた「星のしずく」である。

星のしずくは、とくしま安2GAP認定*の安全安心な生産方法で育成 され、糖度が8~12度という果物並みの甘味が味わえるフルーツトマト。トマト嫌いの人でも食べられるよう、酸味を抑え、薄皮に仕上げている。第三者機関による栄養分析により、一般的なトマトに比べ、鉄、ビタミンCが約3倍多く含まれていることも証明済みだ。

星のしずくは阿波市のブランドであり、今や徳島県を代表するブランドに成長している。徳島県農林水産部のその名も「もうかるブランド推進課」が平成23年度に創設した「とくしま特選ブランド」にも選定された逸品である。「とくしま特選ブランド」の認定基準は、世界に誇れるトップブランドとして、「国内外に誇れる品質」、「商品ストーリー」、「独自のこだわり」という3つの特徴があることが求められる。

*とくしま安2GAP認定…GAP(Good Agricultural Practice/農業生産工程管理)を導入した認定制度。認定された「とくしま安2農産物(安2GAP)」は、「食品安全」に加え、「環境保全」や「労働安全」にも配慮した、優れた農業生産体制で生産された農作物。

星のしずくは阿波市でトマト作りをしていた母親が、子どもや孫に安全で安心なトマトを食べさせてやりたいと思ったことがきっかけで、甘みをとことん追求するに至ったという。健康な土づくりにもこだわ り、有機肥料を使用。農薬代わりに殺菌・防虫作用のあるハーブの精油を香らせ、モーツァルトを聞かせたビニールハウスの中で、フルーツトマトを育てている。フルーツトマトは普通のトマトと比べて手間が掛かり、収穫量も少ないことから、1日限定5箱で注文を受け付けているという。

「返礼品として出した3日後に、生産者の原田トマトさんとお会いしたら、すでに20件近く申し込みが入った、と大変喜んでいました。私どももふるさと納税は間違いなく地場産業の活力になる、と確信しました」と坂東氏。

多品種少量生産という「弱み」を「強み」に変える

原田トマトでは、熟れ過ぎたトマトの使い道を探る中で、同じく特産品認証を受けたトマトピューレ「ルナロッサ」、ゼリー「スタードロ ップ」といった加工品が誕生し、それらも特産品認証を受けるなど、新商品の開発にも熱心である。

「返礼品の協力事業者となっていただく際に必ずお話しているのが、返礼品に特化した商品開発は極力避けてください、ということです。恐らくこの数年間でふるさと納税がなくなることはないと思いますが、制度があるうちにふるさと納税でブランド力を上げていただくためです」と坂東氏。無理のない寄附金額の設定と同様、事業者による返礼品も無理のない対応を心掛けているようだ。

これまで阿波市の農産物は全国的には知られていなかったが、近年、市民と行政による連携で農業を軸としたまちおこしを進めていく中で、そのブランド価値が大手企業の目に留まることとなった。イオンの子会社で農業を手掛けるイオンアグリ創造株式会社が、今年4月に市内に点在する農地を借り受け、「イオン徳島あわ農場」を開いたのだ。生産されているのは、生で食べられるトウモロコシや香りと味が濃厚な四葉キュウリなど、普通のスーパーではお目にかかれない希少品種ばかり。イオングループが目をつけたのは、阿波市の農家にとって弱点だった多品種少量生産にあった。どれだけ生産しても全品を店頭で扱えることが反対にメリットに映ったのだという。農作物は収穫し過ぎると値崩れする原因となるが、大手流通で扱われるとなればそうした問題も解消される。これまで小規模農家を悩ませていた弱みが強みに変わった好事例である。

「農業立市」を掲げてきた阿波市のこれまでの努力は、大手流通に認められるなど、今、ようやく花開き始めている。ふるさと納税を追い風に、これからもさまざまな品種が全国に広まっていくことだろう。

自治体職員といえども寄附者への積極的なコミュニケーションが必須

ふるさと納税は自治体の努力が試される制度。安丸氏は自らの言葉を実践すべく、寄附金額を着実に増やしていくために、二本立ての戦略を展開している。

一本目は、本来の制度の趣旨に沿った、ふるさとへの恩返しをしたい寄附者への積極的なコミュニケーションである。これはビジネスを興すなどして成功している阿波市出身者を探し、地道に訪問していくというものだ。このような人たちは返礼品よりも、故郷や人とのつながりを大切にしているため、「直接お会いして、これまでの寄附に対する感謝の気持ちを伝えています」と安丸氏。寄附者とのコミュニケーションといえば、多くの自治体がお礼状を送るのが精一杯という中、阿波市の応援団を作るため、足で稼ぐという行政マンとは思えない地道なアプローチである。

個人情報保護法の対象となる卒業高校の名簿などは使用できないため、「ほとんどが紹介」だという。紹介を頼りに一人ずつ阿波市出身者を開拓し、紹介先の阿波市出身者からさらにまた阿波市出身者を紹介してもらうことで、寄附者のネットワークを構築している。現在は、近畿圏、中部圏、関東圏を中心に考えているそうだ。

「地元出身者はふるさとへの思いが強いため、ある程度、安定的な財源として確保できます。もちろん、できる範囲の中でお願いしていく ということで続けていきたいと思います」と安丸氏。

二本目は、返礼品選びを楽しんでいる人へのコミュニケーションである。ここでの寄附者は、阿波市を応援したいという人や、返礼品目当てに寄附をした人など、寄附に対する意向はさまざまであるが、クチコミで評判を広めてくれたり、SNSなどで感想を書き込んでくれる場合が多い。そのため、阿波市のファンづくりとして、「とにかく品質の良い物を送ることでリピーターになってもらうことが重要」だという。

「1億円以上の寄附金を集めている自治体では、返礼品の数が100というのが目安になるそうです。阿波市の農産物は品質にこだわった多品種少量生産ですから、そこまではできないとしても、返礼品選びを一層楽しんでいただくために、今後はラインナップを充実させていく方針です」と安丸氏。

どの自治体もふるさと納税の担当者は他の業務と兼務している場合が多く、ふるさと納税事業に本腰を入れることは容易ではない。しかし、「努力の成果が数値として表れるから面白い。担当者の坂東も行政マンらしからぬ営業的センスを持っていますから」と安丸氏はとことん前向きだ。

坂東氏も「これまでは阿波市内のやすらぎ空間の充実を図るために植樹事業に使うことが多かったのですが、特に阿波市出身者による寄附金はふるさとへの強い思いがありますので、出身者の思いに応えられるよう、その他の使途もしっかり考えていきたい。残った寄附金を積み立てる形で現在、積立残高は847万円になりました。これを着実に積み上げていくことはもちろん、長期的な視点で阿波市の活性化に繋がる事業に充当できるように、さらに力を入れていきます」と力強く語ってくれた。

人とのつながりを大切にしながら、働く場所や子育ての場所として「選ばれる」地域

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