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第2章-5 事例に見る、ふるさと納税 広域連携で 周辺自治体と協創 沖縄市
沖縄本島の中部にあり、沖縄県内では那覇市に次いで人口の多い都市である沖縄市。市域面積約49平方キロメートルのうち約36%を、米軍基地である嘉手納基地が占めることから、基地の門前町として発展してきた。そんな沖縄市最大の魅力は、沖縄の伝統文化とアメリカやアジアの文化が交じり合うことで生み出された異国情緒あふれる文化、「チャンプルー文化」(チャンプルーとは沖縄の方言で「混ぜたもの」という意味)にある。唐の世、大和の世、アメリカ世と、常に波瀾の渦中にあった沖縄は、いつの世も昨日までとは大きく異なる新しい文化を巧みに取り入れ、混ぜこぜにすることで独自の文化を形成してきた。
その独自の文化を最も顕著に開花させたのが本土の復帰から2年後の昭和49年、コザ市と美里村(みさとそん)の合併によって誕生した沖縄市である。かつて琉球王朝時代には同じ間切(現在の市町村にあたる)だったコザ市と美里村が、実に308年の時を経て再び1つの市にな ったのだ。新生・沖縄市はさらなる発展を目指し、同年に「国際文化観光都市」を宣言。以降、社会資本整備や商店街の近代化が進められ、中部地域の中核都市となるまでに成長を遂げている。
若年人口が増える一方雇用面で課題
大部分の自治体が人口減少に悩む中、沖縄市は人口が年々増加傾向にある数少ない都市である。平成27年に人口14万人を超え(国勢調査速報値では13万9315人)、人口増加数の大きい市町村としては県内1位である。また、国勢調査で15歳未満の年少人口の割合が全国1位になるなど、次代を担う若者の割合も高い地域となっている。
地域の活力そのものといえる人口が増え続ける一方、雇用面では深刻な課題を抱えている。全国でもっとも高い失業率である沖縄県のなかでも、沖縄市の完全失業率は14.5%(平成22年国勢調査)と県内でも高水準にある。そのため、きめ細やかな就労支援をはじめ、若年者の就業意識の向上や人材育成が喫緊の課題となっている。
それらの課題解決のひとつとして、沖縄市は観光関連産業を推進し、魅力あるまちづくりにつなげることをあげている。オキナワンロックやジャズのサウンドと、三線の音色が交差し、夏には旧盆の伝統行事「エイサー」の太鼓の音が鳴り響く――。こうしたまちの特色ある文化や芸能を守り、地域活性化につなげるため、沖縄市では各種イベントが開催されている。
沖縄県最大規模のエイサー祭り「沖縄全島エイサーまつり」、全国に誇る音楽の祭典ロックイベント「ピースフル・ラブ・ロックフェステ ィバル」、県内外から1万人を超えるランナーが参加する「おきなわマラソン」などがあり、「音楽のまち」、「エイサーのまち」、「スポーツのまち」としての観光振興を推進している。
平成8年にスポーツコンベンションシティ宣言をしている沖縄市では、プロサッカーチームFC琉球やプロバスケットボールチームBJリ ーグ王者の琉球ゴールデンキングスがホームタウンとなっている他、毎年沖縄市で春季キャンプを実施し、25年ぶりの優勝で話題沸騰中の広島東洋カープなど、プロスポーツの活動支援にも積極的に取り組んできた。さらには、スポーツや医療・保養などを通じて市民や県民、観光客が交流・健康づくりを行えるよう、東部海浜開発計画による新しいまちづくりも進めている。
県内でも地域間で収支に格差 まちのPRと財源確保が急務
沖縄市では、地域振興を推進する新たな事業の財源確保に向け、ふるさと納税制度開始の平成20年から寄附金制度を設け、自治体サイト でも寄附の告知を行なってきた。当初は、市役所の窓口のみで受け付けており、窓口での申込みは月1件程度、電話での問い合わせは月5~6件だったという。
また、県外だけでなく市民からも、「沖縄市はインターネットによる申込みはできないのか」、「返礼品は送付していないのか」といった問い合わせが多く寄せられていたことから、まちのPRや市産品の販路拡大と寄附者の利便性向上のため、本格的な取り組みを検討するようになった。
協力事業者の説明会では制度の周知からスタート
「寄附者の利便性を高めるには、ふるさと納税サイトの導入が欠かせないと考え、平成27年9月29日にプロポーザル実施を公表しました」と振り返るのは、沖縄市役所企画部 財政課財政第2係 係長の嘉陽田(かようだ)武史氏だ。審査を経て、10月下旬に事業者がさとふるに決定し、12月9日から運用をスタートさせた。運用体制は、昨年度は財政課が担当し、今年度からは政策企画課が引き継いでいる。
受託業者の決定から運用開始までの期間が1ヶ月強と非常にタイト なことから、返礼品の協力事業者を公募で集めることは難しいと判断。直接、事業者との関わりがあり、商品知識も多い経済文化部の商工振興課や農林水産課などが主要な事業者を絞り込み、説明会への参加を依頼するという地道な取り組みを行なった。
「ふるさと納税の取り組みに対する県内自治体間の温度差は大きく、平成27年の時点でふるさと納税の拡大を本格的に実施している市町村は少ない状況にありました。そのため、説明会では一から制度を理解してもらうことから始まり、返礼品の協力事業者になることでどんなメリットが得られるのか、という部分が伝わりにくかったようです」と嘉陽田氏。他部署も巻き込みながら一丸となって声掛けを続けたものの、とりあえず様子見、という事業者が多い印象だったという。
3事業者、17品目という決して順調とは言い難いスタートを切ったが、それでも12月だけで寄附件数530件、寄附金額730万となり、平成27年(12月~3月)は4 ヶ月で608件、 約980万円の寄附が集まった。今年度(4月~7月)はすでに230件、350万円が集まっており、制度本来の趣旨に沿いながらも、滑り出しは好結果を収めることができた。
地域ブランド認定商品「コザスター」を全国に発信
沖縄市のふるさと納税の方針は、地元の特産品を全国にPRし、観光地として足を運んでもらいたいということにあり、返礼品で稼ぐことを第一の目的としていない。
「これなら稼げる、という商品を並べるのではなく、あくまで沖縄市を知ってもらうために、事業者は市内の会社や店舗に限定し、沖縄市らしいラインナップを目指しています」と語るのは、沖縄市役所企画部 政策企画課主査の仲間修平氏。なかでも、沖縄市の地域ブランド認定制度「コザスター」の商品を返礼品に加えることで、地域ブランドを全国に発信し、育成したい考えだ。
「コザスター」は平成23年に導入された制度で、沖縄市の優れた商品を公募し、商品開発やデザインなどの各種専門家による審査を経て、沖縄市のトップブランドとして認定される。認定商品となれば、県内外の量販店と連携したPRや物産展への参加など、市が販路拡大を支援する。
「コザスター」の認定品は全10種。現在はそのうち玄米や黒ゴマなど栄養価の高い5つの素材を組み合わせた「沖縄薬膳華みそ」と、宮廷菓子だったちんすこうの原型である丸型に成形し、添加物を一切使用せず最高級の素材で作り上げた「金ちんすこう」2品と、昔からアメリカ人に親しまれた飲み方で、最近では沖縄の若い人も好んで飲む沖縄泡盛のコーヒー割りを商品化した「コーヒースピリッツ」(琉球ゴールドのセット)が返礼品となっている。「コザスター」に加え、「コザチョイス」という沖縄市地域資源認定制度もある。これは沖縄市の優れた地域資源について、市民をはじめ市内外からの推薦を受け、選定を行うというもので、地域資源の掘り起こしを目的とした制度だ。「コザスター」と同じく平成23年から始まり、平成27年度までに83商品が選定されている。「コザチョイス」は飲食店が多いため、今後は食事券などの形で参加してもらうことを検討しているという。
伝統食としての返礼品を選定
申込みが多い返礼品は、くいまーる豚、沖縄そば、泡盛の3点。くいまーる豚とは、ブランド豚で、「食う」と「まわる(循環する)」、そして沖縄の方言で助け合いを意味する「ゆいまーる」を掛け合わせた造語である。
沖縄そばは、蕎麦粉ではなく小麦粉のみで作られた麺で、豚の骨付きあばら肉(ソーキ)をトッピングすると「ソーキそば」、豚の角煮(ラフテー)をトッピングすると「三枚肉そば」などバラエティ豊富な沖縄を代表する郷土料理である。沖縄そばと肉(ソーキとラフテー)をセットにしたのが「アワセそば4食セット」で、寄附者からの申込みでも人気があるそうだ。県内及び市内でさまざまな事業者が沖縄そばを生産しているが、全国発送に対応できるよう、真空パックにしたお土産品を扱っている大手業者のアワセそば食堂に協力を仰いだ。
沖縄の酒と言えば泡盛だが、沖縄県内で泡盛を製造する44の酒造のうち、沖縄最古の蔵元が沖縄市の新里酒造だ。1849年に首里の地に酒造所を構えて以来、160年以上もの間、泡盛文化を支えてきた。新里酒造による返礼品には、各種泡盛の他、シークヮーサー梅酒や泡盛の製造過程で生じたもろみ粕を圧縮濾過したもろみ酢、工場見学と泡盛お土産セットなどがある。なかでも、古来からの伝統にも通じる返礼品が「古酒琉球シュロ巻3升壺」である。
沖縄では、結婚や出産などのお祝いに合わせて泡盛を贈ったり、自分で古酒を作る風習がある。たとえば、子どもが生まれた時に甕を作り、子どもが20歳になるとお祝いとして一緒に飲んだり、贈りたい人の祝い事に合わせて古酒を作ってプレゼントする。しかし、若い世代では自分で古酒を作る風習が徐々に失われつつある。「返礼品として出すことで、若者の目に留まり、伝統を継承することができ