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第2章-6 コラム 熊本県南阿蘇村 ふるさと納税を通じた被災地支援
火の国・熊本県の北東部に位置し、阿蘇五岳と南外輪山に囲まれた南阿蘇村。火山が生み出した世界有数の巨大カルデラと多様な地形によって作り出される景観は、それ自体が観光資源でありながら農地や集落としての役割も果たし、村民1万2000人の生活基盤となっている。また、村の至る所で地下水が湧き出し、清らかな「水の生まれる里」としても知られる南阿蘇村は、温泉に恵まれた土地でもある。温泉地としての歴史も古く、豊富な湯量と多彩な泉質で何度訪れても飽きさせない魅力を作り出している。
阿蘇山やくじゅう連山などの火山群、そしてその周囲に広がる雄大な緑の草原が広がる「阿蘇くじゅう国立公園」では、春になると一斉に野焼きが行われるのが恒例となっている。茅野や放牧地として活用するため、草原が樹林へと移り変わらないよう、千年以上前から変わらず続く営みである。園内には、日本名水百選に選ばれた「白川水源」がこんこんと湧き出し、あか牛が緑の草原をのびのびと闊歩する。その姿はまさに日本人の心の故郷というべき光景である。こうした地域資源に恵まれ、阿蘇くまもと空港から1時間以内というアクセスの良さも手伝い、四季を通じて年間約684万人の観光客が訪れ、県外からの移住者をも惹きつけている。
村としては人口が多く、大規模な自治体である南阿蘇村は、平成17年2月、温泉の長陽村、水の白水村、景観の久木野村と、それぞれが独自の地域資源を持ち、地理的・文化的・住民生活上のつながりが深い3村の合併によって誕生した新しい村だ。南阿蘇村では年間を通じてさまざまな地域イベントが開催され、合併によるメリットを最大限に活かせるよう、全員参加のむらづくりを進めている。
被災地支援の新たな手段としてふるさと納税を活用
自然環境や地域資源を総合的に利活用し、村民と知恵を出し合い、村民が「わがふるさと」と胸を張れる「豊かな活力のある村づくり」の実現を目指してきた南阿蘇村では、合併によるメリットを最大限に活かしながら、自主財源の確保と行政運営の効率化を図ってきた。平成20年度からふるさと納税を実施してきたのも、そうした施策の一環である。
南阿蘇村役場 総務課主事の藤岡佑史郎氏は、「制度の趣旨に沿って活用すれば、間違いなくふるさと納税は村の魅力発信と歳入確保に非常に有効なツールになる。制度を最大限に活用するには、寄附者にとって利便性の高いふるさと納税サイトの導入が欠かせないと考えました」と語る。県内で返礼品の送付を始める自治体が増えてきたこともあり、平成27年10月1日からふるさと納税サイトのさとふるを導入し、ふるさと納税の本格的な取り組みを始めるに至った。
導入前は、例年100万円程度の寄附金額が続いていたが、導入後は平成27年3月末までの6ヶ月間で寄附件数2,789件、寄附金額3,180万円が集まり、順調なスタートを切ることができた。ところが半年後、南阿蘇村は思いもよらぬ形で制度に窮地を救われることになる。4月14日に発生した熊本地震である。
「震災の影響により、返礼品の送付を一時中断していました。しかし、それでも大勢の方から寄附をいただいており、心から感謝しています」。今年度は8月末時点で寄附件数は1万4100件、寄附金額は2億6000万円に到達した。南阿蘇村では使途を次の6つ(指定なしを除く)から選択して寄附できるが、寄附者のほとんどが震災復興を選択するそうだ。
南阿蘇村が感謝しているのは寄附金だけではない。「ポータルサイト上でも、役場への申込みでも、『大変だと思いますが、頑張ってください』『お体に気をつけてください』といったメッセージを添えて寄附してくださる方が大勢いらっしゃいます。とても嬉しいですし、励みになっています」。
当初は「ゆかりのある地に恩返しをする制度」というイメージが強かったが、制度開始から8年を経て、ふるさと納税が被災地支援の新たな手段としても活用されるようになったのだ。
自治体間の垣根を超えた災害支援の輪が広がる
熊本地震を背景に、もう1つの新たな動きが起こったことも特筆したい。さとふるは急遽、ふるさと納税を通じて南阿蘇村を支援できる募金専用サイトを立ち上げ、南阿蘇村が最も被害を受けた4月16日未明の本震発生から24時間以内の4月17日0時より「熊本地震災害緊急支援募金」として寄附金の受付を開始した。この募金情報をさとふる及びソフトバンクがSNSを使って拡散すると、短期間で多くの寄附金が集まり、寄附者からは「5分もかからないでできた」「思ったよりも簡単だった」という声が寄せられた。さらに、他のふるさと納税サイト事業者もこれに呼応し、委託手数料なしで災害支援を行う動きが広がっていった。
「この募金によって、今年度は4月だけで1億4000万円の寄附金が集まりました」。返礼品の発送は中止し、さとふるへの委託手数料が免除されているため、役場は事務に労力を割くことなく寄附金を受け取ることができた。
さらには、寄附の代理受付に名乗りを挙げる自治体が現れ、被災地との地域連携も進んだ。山口県柳井市、静岡県吉田町、神奈川県山北町、大阪府茨木市の4自治体はさとふるを通じ、代理受付を行なった。
「自治体間の垣根を超えて、ここまで多くの自治体職員の方に支援していただけるとは思ってもみませんでした。職員の多くが災害対応に追われ、通常業務が滞りがちな中で、皆様の善意を有り難く受け止めています」。