全国に流通している農産品や食品の中には、他地域の同種の産品との差別化・高付加価値化により、もはや産品の名前そのものに価値が認められる、いわゆる「ブランド産品」と呼ばれるものが数多く存在します。
これらブランド産品が持っている価値を、国が認め、地域共有の財産として保護してくれるのが「地理的表示(GI)」保護制度です。
地理的表示(GI)保護制度とは?
地域の風土に根付いた独自の環境や古くから伝わる製法で作られる、唯一無二の個性を持った農産品や食品たち。たとえば「神戸ビーフ」、「市田柿」、「夕張メロン」などが思い浮かびます。これらの産品に代表されるような、生産地の持つ自然的・人的条件(気候・自然環境・伝統的な技法など)に紐づいた特性を持つ伝統的な産品の名称(地域ブランド)を、国が地域共有の知的財産として保護するのが「地理的表示(GI)保護制度」です。
制度制定の背景
「地理的表示(GI)保護制度」が制定された背景には、「生産者の利益の保護」、そして「需要者の利益の保護」という二つの目的があります。いくら生産者の方々が多くの時間と労力をかけて高品質な産品を生産しても、それが市場においてきちんと評価され、その価値が認められなければ適切な利益を得ることができません。また、そのような地域ブランドの名称について他人の模倣を許してしまうと、それまで費やしてきたコストだけでなく、本来生産者の方々が得られるはずであった利益も横取り(フリーライド)されてしまう可能性があります。
このような事態を防ぐため、一定の要件を満たした地域ブランド産品を国が適正に評価するとともに、仮に他人が模倣した場合には国が取り締まる制度の構築が急務となっていました。また、このような制度の存在は、生産者の方々だけでなく、需要者(消費者)の皆さんの保護にもつながります。すなわち、GIとして登録されるためには、特徴のある産品というだけでなく、その品質管理体制が整備されていることも要件となります。
GI登録された産品は国によって模倣品が排除されることになりますので、需要者(消費者)の方々は、品質の良い、本物の産品を選ぶことができるといえます。このような経緯から、2015年(平成27年)6月、「地理的表示(GI)保護制度」がスタートしました。ちなみに、海外のGIとしては、フランス・シャンパーニュ地方で生産される発泡性ワインの「シャンパン」が有名ですね。
他にも、フランス・ノルマンディー地方の「カマンベール・ド・ノルマンディー」やイギリス・スコットランド西海岸で養殖された鮭「スコティッシュ・ファームド・サーモン」、イタリア・パルマ地方の生ハム「プロシュット・ディ・パルマ(パルマハム)」などが知られています。
「地理的表示(GI)」は海外でも導入されている制度です
「地理的表示(GI)」は、地域ブランド保護の枠組として国際的に広く認知されており、世界100か国を超える国と地域で保護されています。WTO(世界貿易機関)の「TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)」においても、知的財産のひとつとして位置付けられています。また、本年(2019年)2月に発効した日本とEUの経済連携協定(日EU EPA)では、関税の撤廃だけでなく、GIを相互に保護する仕組みが整備されており、これにより日本の48産品、EU側の71産品についても、自国のGIと同様に保護を行うこととなりました。
「GIマーク」について

「地理的表示保護(GI)制度」の登録は、まず、農林水産物・食品の生産業者などから構成される団体が、産品の名称を生産地や品質などの基準とともに、農林水産大臣に申請することから始まります。農林水産省による厳正な審査の結果、所定の登録要件を満たした産品が「地理的表示(GI)」として登録されます。
保護対象となった産品の名称には、その登録の証として「GIマーク」を使うことが認められます。この「GIマーク」が付されていることで、他の産品との差別化を図ることができるというわけです。
なお、GI登録されていない、または基準を満たしていない産品にこのマークを使用することはできません。不正な名称やマークの使用が判明した場合には、法律の規定に基づき、罰則が科されます。ちなみに、「GI」とは、「Geographical(地理的)Indication(表示)」の頭文字からとられています。
産品の登録例
近江牛

【地域との結びつき】
滋賀県内でもっとも長く飼育された黒毛和種であり、滋賀の豊かな自然に囲まれながら琵琶湖の水を飲んで育ちます。牛肉食が禁じられていた江戸時代、将軍家への献上のため、唯一、牛肉の生産が許されていたのが彦根藩でした。
大正時代から肥育振興策が実施され、昭和26年には日本初のブランド牛肉振興団体「近江肉牛協会」が設立されるなど、古くから和牛生産に取り組んでいるのがこの地域であり、「近江牛」は「日本最古のブランド牛」とも言われます。
【産品の特性】
「日本三大和牛」のひとつとされます。融点が低い不飽和脂肪酸であるオレイン酸を多く含み、脂質の口溶けが良いのが特長。特有の香りと柔らかさも高い評価を獲得しています。
ステーキやすき焼き、しゃぶしゃぶなどさまざまな料理にマッチし、プロの料理人たちからの人気も高いブランド牛です。
神戸ビーフ

【地域との結びつき】
約1200年の昔から、兵庫県北部但馬地方の山あいで農耕に用いられた役牛を由来とする「但馬牛」(黒毛和種)が素牛。「神戸ビーフ」の素牛は「但馬牛」に限られています。
「但馬牛」からとれる枝肉が生育環境や血統、肉質などでさらに高い審査基準をクリアした場合のみ「神戸ビーフ」を名乗ることができます。
【産品の特性】
「日本三大和牛」のひとつとされ、A・B4等級以上でBMS値No6以上に格付けされた枝肉を指します。最高級の霜降り肉とされ、深遠な旨み、キメの細かさ、とろける食感…、海外でも絶賛の逸品です。なお、「神戸ビーフ」の証しとして兵庫県の花「ノジギク」を形どった刻印が押されます。
但馬牛

【地域との結びつき】
約1200年の昔から、兵庫県北部但馬地方の山あいで農耕に用いられた役牛が由来。小柄で小回りがきき、よく働く「但馬牛」は古来、役牛として大変評判で、同時に食用にも適した良い牛として知られていました。
雨が多く、昼夜の寒暖差が大きく、山々からは豊富な水が流れ、良質の草もあった但馬地方で毎日険しい山を行き来することで足腰も鍛えられ、丈夫な牛となっていった「但馬牛」。
今もなお他府県産の和牛との交配を避け、完全な純血を守り続ける、優秀なブランド牛です。
【産品の特性】
「但馬牛」「但馬ビーフ」は、A・B2等級以上に格付けされた枝肉だけが名乗ることができます。もともとの肉の味と脂肪の甘さが加わったサシの部分のバランスがよく、口の中でとろける絶品の味。全国の料理人たちが高評価を与える逸品です。
市田柿

【地域との結びつき】
長野県高森町の市田地域(旧市田村)を発祥の地とする、渋柿を材料としてつくられる干し柿が「市田柿」です。
この地域は、昼夜の寒暖差が大きいため高糖度の原料柿ができること、晩秋から初冬にかけて川霧が発生し干柿の生産に絶好の温度と湿度が整う地域であることから、高品質の干し柿を産出することができます。
干し柿の生産シーズンに各生産農家にかけられる柿のれんは当地の風物詩となっています。
【産品の特性】
地域発祥の品種で、糖度が高く、小ぶりな「市田柿」を用いた干柿。
伝統的な方法を活かした干し上げやしっかりとした揉み込みを行うことにより、飴色で、もっちりやわらかな食感や表面の白い粉(ブドウ糖の結晶)、高級和菓子のような上品な甘みを持った「市田柿」が出来上がります。
いぶりがっこ

【地域との結びつき】
降雪の時期が早く、日照時間が短い秋田では漬物のための秋大根をしっかりと天日干しできません。そこで屋内の梁に吊るし、囲炉裏火の熱と煙を利用して干し上げてつくられるようになったのが「燻り(いぶり)漬け」です。
囲炉裏を有する家屋が少なくなった近年、この「燻り漬け」は漬物屋がつくる「いぶりがっこ」となり、特産品として全国に知られるようになりました。名称は、秋田の方言「がっこ(漬け物)を燻したもの」という意味です。
現在も、大根の品質や気温、温度などに応じて火加減を調整し、全体を均一に燻す職人的な技術を地域で伝承しています。
【産品の特性】
パリパリとした食感、香ばしい燻しの香りと大根の甘みが一体となった独特の風味。野菜を燻して漬け物にした、日本のみならず世界でも希少な燻製食品です。
秋田県の特産品として県外での人気も高く、全国的に野菜漬物の生産が減少する中、年々生産量が増加しており、社会的評価も高まっています。
紀州金山寺味噌

【地域との結びつき】
鎌倉時代に中国の径山寺(きんざんじ)から、宋での修行から帰国した僧によって和歌山県に持ち帰られた味噌の製法を起源とする説が有力であり、和歌山県が金山寺味噌発祥の地とされています。民衆の保存食として広まり、江戸時代にも紀州名物として販売されていました。
1948年頃に現在の製法が確立。その後は和歌山県内で継続して生産されています。
その後、1951年には県内の味噌生産者らにより、「紀州味噌工業協同組合」が設立され、「紀州金山寺味噌」の名称を使用するための規定を策定しブランドの保護が図られています。
【産品の特性】
和歌山県内で伝統製法により生産されている、“そのまま食べる味噌”。
野菜を麹と一緒に仕込み、発酵・熟成させているため、麹と野菜の味とが溶け合い、味がまろやかで、粒が残った状態でも柔らかな食感を持つ保存食です。
また、「紀州金山寺味噌」は麹原料として大豆、裸麦、米の3種類すべてを使用し、具材として瓜、茄子、生姜、紫蘇のすべてを用いてつくられますが、他地域の金山寺味噌は米を使わない、紫蘇を使わないといった違いがあります。
越前がに

【地域との結びつき】
能登半島より西側の日本海には、ズワイガニの生息域が広がり、我が国の主要な漁場となっています。中でも、越前海岸沖は、急深な地形によって沿岸から近距離に好漁場が形成されているため、福井県は古くからズワイガニの産地として知られています。
福井県内の「目利きの力」のある経験豊富な流通業者にも満足できる品質のカニを安定して水揚げできるように、漁船での選別作業や鮮度維持のための冷温保管が徹底されています。
【産品の特性】
底引き網漁船により福井県内で水揚げされたズワイガニで、そのほとんどが生きた状態のまま水揚げされるため、なんと言っても鮮度が良いのです。威風堂々とした雄がにの脚の肉は、刺身にすると肉の繊維が繊細にとろけるような食感と甘みの強さが感じられ、ゆでると食感はふっくらとし、甘みを伴ったカニの旨味を味わうことができます。鮮度低下が早いカニミソ(肝膵臓)や、「赤いダイヤ」とも呼ばれ珍重される雌がに(せいこがに)の内子(卵巣)も濃厚な旨味を持ったものになります。
福井県により90年以上にわたり皇室に特産品として献上され、同県を代表する水産物として全国的に高い知名度を有し、重量当たりの単価は全国平均を上回っています。
広がる効果
生産者のメリット
品質保証・差別化・ブランド化につながる
GI登録により、「一定の品質を満たしている」という国の“お墨付き”をもらえるため、それが産品の品質保証にもつながります。
また、「GIマーク」が使用できることで他の産品との差別化にもつながり、それによる価格の上昇も期待できます。
このような効果により、産品のブランド価値を更に高めることが可能となります。
模倣品の排除・利益の保護
GI登録されたブランドの名称や「GIマーク」の不正使用に対しては、行政が取り締まります。これにより、生産者は訴訟費用などの負担なく、自分たちのブランドを守ることができます。
日本の地域ブランドの海外展開に寄与
「地理的表示(GI)」は、諸外国との相互保護により、国内だけでなく国際的にもその名称が保護される可能性があります。輸出先の国で模倣品や類似品が販売されることを防げるため、海外展開する際の大きな助けとなります。
モチベーションのアップ
GI登録により産品に対する注目が今まで以上に増えることによって、生産者のさらなる自信やモチベーションのアップにつながります。
上記の他にも、土地の産品が話題となることで「町おこし」、「担い手の増加」、「産地の活性化」などといったメリットが考えられます。
消費者のメリット
消費者にとっては、「GIマーク」があることを確認することによって、迷うことなく安心・安全、品質が担保された商品を購入できるメリットがあります。とくに、GIの不正な使用に対しては行政による取締りが行われますから、産品にある表示を信頼して購入することができます。
さとふるで選べるお礼品のご紹介
さとふるでも、こうした地域のさまざまな特性を反映したブランド産品を、ふるさと納税のお礼品として受け取ることができます。

■野菜類

■果実類

■肉類

■魚介類

■加工食品

■非食品
全国に数ある特産品の中には、その土地にしかない特性を反映した“知的財産”として国に守られているものが数多く存在します。
皆さんもぜひ「地理的表示(GI)」を頼りに、ユニークかつすばらしい特産品の数々に触れてみてください。
また生産者の方々も、ぜひGI登録により、精魂込めてつくり上げた“自慢の品”をもっと国内外にアピールしてみてはいかがでしょうか。
※地理的表示保護制度のページ
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/index.html