2019/12/19
人口8千人の町の「ファンづくり」戦略
北海道白糠町 寄付から始まる"顔が見える関係づくり"
ふるさと納税では、寄付を受けた自治体がお礼の気持ちとして、感謝状や地域の特産品などを寄付者に届けることがあります。感謝の気持ちと同時に地域の特長や特産品を知ってもらうことで、特産品の直接販売や寄付先の地域訪問につながったりと地域のファンづくりのきっかけになっていますが、現在、ふるさと納税をきっかけに、寄付者との関係をより深めることを目的に、対面して感謝の気持ちを伝えるイベントなどを開催する自治体もあります。
北海道白糠町(しらぬかちょう)は、寄付者への感謝の気持ちを伝えるため、2019年2月に東京で「北海道白糠町ふるさと納税感謝祭2019」を行いました。町のファンづくりに積極的に取り組む北海道白糠町の取り組みを紹介します。
2019年2月に行われた「北海道白糠町ふるさと納税感謝祭2019」
寄付環境を整え、継続的な情報発信を
北海道白糠町は北海道の東部に位置する、人口約8,000人の町。
ししゃもや毛がに、鮭や柳だこなど、1年を通じて様々な海産物が獲れる豊かな漁場があると同時に、イタリアンチーズやしそ焼酎などに使用されている紫蘇(しそ)、鹿肉、羊肉などの山の幸にも恵まれている食材の宝庫です。
ふるさと納税を活用し、町のアピールを行うとともに、多様な魅力にあふれる地域の産品をお礼品として提供することで、産業振興や地域経済の活性化を目指しています。
多数のふるさと納税サイトを活用するほか、お礼品の魅力や寄付の使い道を伝える特設サイトを立ち上げるなど、積極的なPRを行いながら、寄付者が寄付しやすい環境を整えています。さらに、寄付後も寄付金の使い道の報告を毎年はがきで報告したり、メルマガやSNSを使って、町がテレビや雑誌で取り上げられたときの報告やイベント出展情報を周知するなど、寄付者との継続的な関係性づくりに取り組んでいます。
また、北海道白糠町役場の佐々木さんによると、3年ほど前から寄付者と"顔が見えるコミュニケーション"を行うことにも力を入れており、『さとふる』が開催した「ふるさとまんぷく祭」など、2019年も数々のイベント参加を通じて、全国に白糠町の魅力を届けると共に、コミュニケーションに努めています。
2019年10月に行われた「ふるさとまんぷく祭」(さとふる主催)白糠町ブースでは、
ししゃもの香ばしい香りに誘われて、多くの人が白糠町のブースを囲んでいた
「ふるさとまんぷく祭」で白糠町のPRを行った皆さん
プロの力で町の豊富な食材の新たな魅力を発見
さまざまな方法を使って、寄付者とコミュニケーションを図る北海道白糠町。2019年2月、白糠町では寄付者への感謝の気持ちを伝えるべく、「北海道白糠町ふるさと納税感謝祭2019」を開催しました。このイベントは2018年にふるさと納税で白糠町に寄付をした人から、抽選で集まった約500人の参加者に向けて北海道白糠町の食材を使用したフレンチのフルコースが振舞われるというもので、東京都千代田区にあるフランス料理店「サンス・エ・サヴール」で行われました。
東京駅にほど近い、丸ビル35階「サンス・エ・サヴール」でフルコースが振舞われた
白糠町役場の佐々木さんは、フレンチのフルコースを振舞う形で、「感謝祭」を行った背景について、こう話します。
「白糠町の魅力は何と言っても、海のものから山のものまである豊富な"美味しい食材"。生産者の努力もあって食材が揃ったことから、白糠の魅力を知っていただくには、フレンチのフルコースしかない!との思いをコンセプトに開催したものです」
当日会場では一口前菜として「<大森水産>柳葉魚(ししゃも)と<白糠酪恵舎>リコッタチーズのマルメラード 黒オリーブのアクセント」や、「<広洋水産>いくらを使ったアイヨリソース レモンコンフィのクーリ」など、前菜からデザートまでのフレンチコースが白糠町の新選な食材を80%以上使って提供されました。
「<大森水産>柳葉魚と<白糠酪恵舎>リコッタチーズのマルメラード 黒オリーブのアクセント」
「<広洋水産>いくらを使ったアイヨリソース レモンコンフィのクーリ」
「<馬木葉>蝦夷鹿フォアグラのロティ」
いくらやししゃもなどは、一般的に和食に使われているイメージが強く、また、鹿肉などが自宅に届いても、普段食べ慣れていない事から調理法などが偏ってしまうということもありますが、当日ふるまわれた料理はフレンチのシェフの技が光るアレンジばかりで、「こんな食べ方もあるのか」という驚きの連続です。「感謝祭」に参加していた生産者の方々からも「水産物がフレンチになるとは思いもよらなかった」などの驚きの声が挙がりました。
当日は、フルコースの提供以外にも、生産者による食材の紹介、寄付金の活用事例の報告等を行うと同時に、佐々木さんなど、町のふるさと納税担当者がそれぞれの参加者の席をまわり、感謝の気持ちを伝えており、対面だからこそできる、より密接したコミュニケーションに努めていました。
生産者から直接の食材のアピールを行うことで想いや魅力もより伝わる
イベントの中で、地域の食材を使った料理を提供するだけでなく、生産者によるPRや寄付金の活用事例紹介などのコンテンツを取り込んだ狙いについて、佐々木さんはこう話します。
「生産に対する熱い思いや愛情を伝えることで、食材の魅力をさらに深く知っていただけたと思います。また、寄付金の活用事例の報告については、寄付者にとって寄付金がどのように使用されているのかはとても気になるところです。今後も一過性の繋がりで終わることなく、寄付者様との対面したイベント活動を通じ、白糠町の取り組みを直に知ってもらうことで、より深く、継続した関係性を築いていきたいと思っています」
"インターネットでは伝えきれない魅力"を今後も発信
参加した寄付者からも「感謝祭」は好評で、「これまで以上に印象が良くなり、町役場や生産者の方々の人柄を知ることで応援したくなった」「生産者の方々や地域で働く方の顔が見られるのは安心感があった。さらにファンになり、実際に訪れてみたくなった」「特産品について詳しく説明してもらえたので、インターネットだけでは知ることができない事も意識して、食材を味わうことが出来た」などの感想があり、直接コミュニケーションをとることで、白糠町の魅力をより強く印象付け、町のファンを作ることに成功する施策であったことが伺えます。
当日のメニュー冊子からも、生産者や食材の魅力が伝わってくる
最後に、今後の取り組みについても聞きました。
「今後も同様のイベント開催を予定しています。今回のようなイベントは、食材が充実している今だからこそできるようになったもので、全国でもこのような自治体は数少ないと思います。最高の食材を食事の最高級であるフレンチで提供することで、更に食材の格が上がり、ブランド化にもつながるものであり、生産者の誇りにもなるものです」
「感謝祭」の開催をきっかけに、各種媒体での露出や、開催したレストラングループで、白糠町の食材が継続的に仕入れられるようになるなど、ファンづくりだけではない効果も出ているそう。全国的にも新しい手法で町のPRやファンづくりを行う白糠町に、今後も注目です。