2025/03/14
地域一丸で取り組み10年間で寄付額120倍以上に
静岡県静岡市 トライ産業株式会社 ランキング1位を獲得したビッグウェーブ
ふるさと納税サイト「さとふる」は2024年10月に10周年の節目を迎えました。静岡県静岡市は2015年にさとふると契約し、今年で10年目となります。静岡市は「南アルプス」をはじめとした山々や、富士山を借景した風光明媚な景観が多くあります。一方で駿河湾に面していることから海も山もあり、豊かな食材やおいしいお茶の名産地で、お礼品のバリエーションが豊富な自治体です。
2015年のさとふる導入時には、寄付額が前年比6.8倍以上に伸びた静岡市ですが、現在は更に寄付額を伸ばしています。
静岡市の新たな主力お礼品を提供するトライ産業株式会社の六鹿 比斗志さん、静岡市財政課ふるさと寄附金担当 伊藤 克真さんにお話を伺いました。
「一船買い」「延縄漁」 鮮度を落とさない手法にこだわり
トライ産業はおもに冷凍マグロの加工販売を行う業界大手で、1988年に創立し、年間約2.6万tの冷凍マグロを扱っています。おもな取引先は企業で、量販店や大手寿司チェーン店へ商品を卸しています。
─他社との違いについて教えてください
六鹿さん:「特徴としては、『一船買い※』や本社横の加工場の設置、漁獲方法により、鮮度が高く、それぞれのニーズに合わせた部位を提供できるよう、こだわっています。特に漁獲方法には巻き網と延縄(はえなわ)漁の2種類のうち、延縄漁を採用しています。巻き網では、網の中でマグロ同士がぶつかることによって傷がついてしまいますが、延縄漁ではマグロのダメージを軽減することで味や鮮度が落ちにくい点が特徴です」
トライ産業では、刺身用のサクのほか、サクを切り落とす際に出る端の部分を使用した「ネギトロ」などがあり、この「ネギトロ」がふるさと納税で特に人気となっています。
※ 一船買い:一隻の船でとれた魚をすべて買い付ける仕入れ方法
冷凍マグロの水揚げの様子
知名度向上のためふるさと納税への参加に名乗り出る
トライ産業は2023年3月に総合商社の双日グループの傘下となり、営業強化の機運が高まっていました。そんな中で、一般消費者の自社の知名度への課題が浮き彫りになり、ふるさと納税への参加を検討するに至ったそうです。
─ふるさと納税に参加した理由を教えてください
六鹿さん:「ECサイトへの参入もあわせて検討する中で、ふるさと納税は掲載料がかからないという点が魅力でした。また、一部宅配サービスにて提供していた商品はあるものの、ECでの掲載経験がなく、サイト掲載用の商品写真がないことがネックでしたが、ふるさと納税サイトでは、サイトのプラットフォームからお礼品撮影まで一括でサービス提供してもらえることも魅力でした」
静岡市の事業者の多くは自治体からの募集や声がけにより、ふるさと納税に参加してきましたが、トライ産業の場合は自ら参加を希望し実現しました。そして、2023年12月、「さとふる」のほか、8つのふるさと納税サイトでの掲載を開始しました※。
※ 2025年2月時点では12サイトに掲載
トライ産業本社オフィス
開始1年で大人気お礼品に
トライ産業の「ネギトロ」は、「さとふる」掲載開始直後からみるみる人気が上昇し、掲載後1年後の2024年全国ランキングでは25位、中部地方ランキング7位、静岡市ランキング1位という好成績を残しました。また、「ネギトロ」には約1年で1,000件近くのレビューが寄せられ、★4.7の高評価※がつけられています。
※ 2025年2月13日時点
─人気についてどのように感じますか?
六鹿さん:「量販店での販売では消費者のリアクションを感じることは難しかったのですが、ふるさと納税はレビューで評価をダイレクトに受け取れることがメリットと感じています。レビューは社員にも共有し、モチベーションにもつながっています。
また、約1,000件のうち、数少ない低評価のレビューには『脂っぽい』という意見があります。『ネギトロ』には3種類のマグロが使用されていますが、そのうちのびんちょう鮪は身が白く、見た目からも脂っぽく感じられてしまうのではと考えています。このレビューから配分などの改善も検討しています」
お礼品の寄付額は、平均年収からふるさと納税の控除上限額を想定し、そこから手に取りやすい寄付額を算出して設定しているほか、企業努力により魅力的な内容量かつ寄付額での提供を実現しているそうです。「さとふる」では2023年12月の登場時にトップページのおすすめに掲載されたことで一気に人気に火が付き、さらに翌年3月のキャンペーン開催中にも掲載されたことから、多くの人の目に触れ2024年の好成績につながりました。
トライ産業が提供するネギトロのお礼品ページ
プロジェクトチーム発足でさらなる事業者開拓を進める
トライ産業の登場に加え、静岡市では近年ふるさと納税の取り組みを強化しています。
─静岡市におけるこれまでのふるさと納税の取り組みについて教えてください。
伊藤さん:「2015年のお礼品提供開始当時は、あくまでも寄付がメインで、お礼品は一部の事業者に絞り、限定的に取り組んでいました。しかしふるさと納税市場が拡大するにつれ、静岡市における税収の減少も問題視されるようになり、2021年に寄付を増やすことに舵を切りました。大きな変更点としては、お礼品を公募式にしたことで、お礼品数が200品から800品以上に増え、寄付額を伸ばすことができました。そして2023年には『ふるさと納税推進プロジェクトチーム』を立ち上げました」
─新たに発足された『ふるさと納税推進プロジェクトチーム』について教えてください。
伊藤さん:「『ふるさと納税推進プロジェクトチーム』は、ふるさと納税担当課の財政課のほか、広報や経済、観光課から構成されています。これまでふるさと納税は地元企業と接点の少ない財政課のみで担当していましたが、このプロジェクトチームにより、各課から情報が得られるようになり、魅力的なお礼品開発・事業者開拓ができるようになりました。プロジェクトチームでは市内企業の把握・分析を行い、個人商店が多いことや、個人商店ではITに不慣れな人が多いことを考慮し、サポート体制の強化などの対策を検討しています。一方で、ふるさと納税がITに挑戦するきっかけとなっている事業者もいると感じており、地域企業への良い刺激になっていると思います。
またふるさと納税サイトごとに人気のお礼品に違いがあるため、利用者の特性を分析し、お礼品を増やすだけでなく、サイトごとにお礼品ラインアップを変えたり、見せ方を変えたりすることで、戦略的にサイトを活用していきたいと考えています」
実際に、静岡市の2024年度の寄付額は、12月時点で2014年(お礼品提供開始前)と比較し120倍以上の寄付額となっています。
静岡市のふるさと納税による減収額は32億円ほどあり、まずは流出分を埋めるために寄付を伸ばしたいと考えているとのことです。そして2025年度の寄付額は、減収額を上回る35億円を目標にしています。2024年7月からはタレントの勝俣州和さんが「静岡市ふるさと納税応援大使」に任命され、さらなる魅力発信も期待されています。
勝俣州和さん「静岡市ふるさと納税応援大使」任命式の様子
そんな静岡市の寄付金の使い道は、5大重点事業をはじめ全8事業から選ぶことができます。中でも、「子どもの育ちと長寿を支える」や「南アルプスの美しく豊かな自然を守り活用する」が多く選ばれています。現在、来年度からの選択肢について検討しており、寄付者がより応援したい使い道が選べるよう、改善しています。
戦略的な取り組みで次のステップへ
今回取材したトライ産業および静岡市はどちらも戦略的に取り組む姿勢が印象的でした。トライ産業では、今後さらなるラインアップ拡充を目指しており、現在のネギトロ以上に人気の出るお礼品も模索中とのことです。本マグロをいれた高級路線のネギトロや、ネギトロ以外にもマグロの切身や切り落としの小分けパックなど、新たな人気お礼品誕生も期待されます。また、ゆくゆくは自社のWEBサイトを立ち上げ、一般消費者の知名度を上げていきたいという構想もあり、ふるさと納税でのラインアップ拡大が次のステップへの後押しとなりそうです。
また、東京都だけでなく、全国の政令指定都市でもふるさと納税による税収の減少が課題となっているなか、静岡市はふるさと納税の受入額、減収額ともに大きく、ふるさと納税による影響が大きい自治体といえます。静岡市の伊藤さんは、「静岡市のお礼品は『一つだけじゃない』。肉、魚介、フルーツ、お茶、加工品、電化製品、工芸品など、いろいろな特産品があるのが静岡市の魅力」と言います。お礼品拡充とともに寄付額アップも期待されますが、税収の減少にどのように立ち向かうのか、静岡市のさらなる進化に今後も目が離せません。
お礼品の詳細はこちら▼