2019/11/21
「島野菜セット」販売で奄美の農業を救う
株式会社しーま 島内でのみ流通する奄美の農作物を全国へ
鹿児島県の種子島・屋久島よりもさらに南に位置する奄美大島。その奄美大島で最も広い面積を占める奄美市に、地域メディアを運営する株式会社しーまがあります。しーまが地元の農産物直売所と協力し、ふるさと納税のお礼品に農作物を登録した経緯を、社長の深田小次郎さんとネットショップ店長の田中力也さんに伺いました。
奄美の発展は、情報量に比例する
ブログサービスの運営に始まり、フリーペーパーの発行やイベントの主催、動画の制作まで行う株式会社しーまは自らを「地域メディア企業」と呼びます。
「情報」を扱う企業がどうして「農作物」という畑違いのものを扱うようになったのでしょうか。
株式会社しーま 深田小次郎社長
「そもそもは僕が東京にいるときに、シマ(奄美のこと)の情報が欲しくてブログサービスを始めました」(深田さん)
奄美の中学校を卒業後、進学のために奄美を離れ、その後東京で働いていた当時、深田さんはシマの情報に飢えていたそうです。
「東京からシマを見てみると、シマの情報って意外と手に入りにくいんです。もっとシマの魅力が発信されれば奄美がもっと発展するんじゃないかと思いました」
そこで深田さんは"奄美の発展は情報量に比例する"と仮説を立て、奄美の島民自身が写真を撮り、記事を書いて奄美の情報を発信するブログサービス「しーまブログ」を立ち上げました。
その後、飲食店情報、求人情報、イベント情報など、様々な情報発信を手掛けてきたしーま。2019年7月にネットショップを立ち上げ、農産物の販売を始めたそうです。
奄美のお店のためにネットショップを立上げ
地域メディアとして10年以上奄美の情報を島内外に発信し続けてきたしーま。なぜこのタイミングでネットショップを立ち上げたのでしょうか。
これまで手掛けてきた情報誌の一部
お店の情報発信をサポートしてきた
「情報誌作りでいろんな店を回って、お店の皆さんは忙しいことがわかりました。企画して生産し、デザインを考え、営業・集客して、販売。モノの仕入れからお客様のフォローまで、たくさんの作業を生産者が全てやるのはとても大変です」(深田さん)
これまで地域のお店の集客をサポートしてきたしーまは、もっと幅広くサポートをしたいと考えるようになり、集客から販売までサポートしようとEC事業部を立ち上げたそうです。
担当は前職でネットショップの運営をしていた田中力也さん。
「もともとネットショップの運営をしていましたが、立上げは経験がなく不安もありました。深田社長の話す、奄美を元気にする取り組みに参加したいと思って入社を決断しました」(田中さん)
ふるさと納税のお礼品登録
ネットショップ立ち上げの際、これまで付き合いのあったお店の商品を扱いつつ、あまり他社が扱っていない商品も取り扱いたいと、知り合いの農家から「もっと販路を拡大したい」と相談があった「島バナナ」の販売を始めました。
株式会社しーま EC事業部 田中力也さん
「しっかりと農家さんの取材をして、ページをきっちり作って販売をスタートさせました。でも、スタートから2週間たってもなかなか売り上げが伸びませんでした」(田中さん)
分析してみると「島バナナ」自体の認知度が低く、自社サイトを見てくれる人が少ないことがわかりました。立ち上げたばかりなので広告予算もまだなかったそうです。
「知り合いにふるさと納税に出してみたら?と教えてもらって、ものは試しにと自治体に相談し、お礼品に登録してみました」(田中さん)
ふるさと納税のお礼品に登録すると、全国の多くの人の目に触れるため、2日後にはさっそく1件の注文が。それからどんどん注文が入りはじめ、しーまで1番のヒット商品に成長しました。今ではほぼ毎日、注文が入るそうです。
「『島バナナ』を仕入れさせてもらっている農家さんにも、本当に喜ばれています。ふるさと納税で当社を知ってくれたお客様が、自社サイトの方で再注文してくれることもあります。徐々に自社サイトも活気づいてきました。」
ふるさと納税でのお礼品提供が、広告の役割を果たし、「島バナナ」のファンを増やすきっかけになっています。
奄美の文化を支える島野菜
集客から販売までのサポートを進めるしーまは、「島バナナ」に続いて、「島野菜セット」の販売に乗り出しました。
「島野菜セット」直売所にある野菜を、ベテランスタッフが選ぶ
「島野菜」とは、奄美で栽培されて食べられている野菜のこと。本土の野菜に似ていますが、サイズ感が異なっていたり、香りや味が濃い点が特徴です。
「ハンダマ」「コサンダケ」「フル」「ターマン」「シブリ」など、この不思議な響きはシマで愛されている島野菜の名前です。
奄美の郷土料理にはこれらの野菜が欠かせないそう。シマでは、旬の時期に近所の人や親戚から野菜をもらうことが多く、島野菜はシマの季節を感じさせてくれるもののひとつだそうです。
「フル(島ニンニクの葉)が出回り始めたら、鍋シーズンのはじまり。シブリ(冬瓜)をもらったら鶏肉といっしょに煮て、みんなが大好きな「かしわ汁」を作ります。ハンダマ(水前寺菜)はさっと湯がいておひたしに。コサンダケ(ホテイチク)は塩豚といっしょにうまみたっぷりの煮物に。ターマン(田芋)はごちそう気分で、おいしく蒸して大切に味わいます。
奄美のおいしい料理文化は、季節の島野菜とともにあるといえるでしょうね」(田中さん)
島内の直売所に並ぶ、旬の島野菜の数々
このように、島野菜は郷土料理の食材として、島文化を支える大切な存在です。一方で、農業関係者は不安を感じています。
「知り合いのおじいさんは体力が厳しいと80歳を迎えたのを境に庭の畑以外は耕作放棄地にしました。また、僕は2年前に岩手県出身の妻を連れて奄美にUターンしたのですが、妻は扱い慣れた一般的な野菜の方が扱いやすいといっています」(田中さん)
こういった農家の高齢化や若い世代に調理法が知られていないなどの問題から生産量・消費量が減っているという現状があります。島野菜や、奄美の食文化への影響が懸念されていました。
奄美の島野菜を救いたい
「島野菜セット」は、こうした問題を解決するために誕生しました。
島野菜の下ごしらえの方法・レシピを制作して同封することで島野菜に馴染みのない人でも扱いやすいように工夫しています。また、状態の良い野菜を、直売所のスタッフが選んで箱に詰め、冷蔵便でみずみずしさを保ったまま配送しているそうです。
「まずは島野菜の消費を促進することで、島野菜を育ててみたいという農家さんを増やしていきたいと思っています」(深田さん)
ふるさと納税のお礼品公開から1週間で数件の注文があり、新聞やテレビ局の取材も入るなど滑り出しは上々。次の取り組みとして、奄美の郷土料理「豚骨(ぶたぼね)」などが味わえる「正月料理セット」も企画が進んでいます。
「『島バナナ』の実績からふるさと納税には期待していましたが、それでもビックリするほどの注目度の高さです」(田中さん)
今後は企画を進めている「正月料理セット」のほかに、加工品の開発や、海産物直売所と協力した取り組みも計画しているそうです。
「奄美の島民が自分たちのシマに誇りを持てるように経済的な発展を図りたい。ただ発展のために自然や文化を壊すようなことはしたくない。シマのヒト、モノ、コトを情報で繋いでシマを盛り上げていきたいです」(深田さん)
素晴らしい自然が残る奄美のエメラルドグリーンの海