2021/07/19
地域の子どもたちや美しい海の未来を守る
海洋活動を通じて持続可能な開発目標に取り組む いわてマリンフィールド
岩手県宮古市は、本州最東端に位置する漁業と観光のまちです。岩手県沿岸のほぼ中央、宮古港の神林地区にあるリアスハーバー宮古は、全国176駅ある海の駅の一つとして、多くの海上からの来訪者を迎えてきました。また、夏季シーズンにはヨットやシーカヤック、モーターボート、スタンドアップパドルボードなど、様々なマリンスポーツのイベントや大会が行われています。そんなリアスハーバー宮古を拠点に活動しているのが特定非営利活動法人「いわてマリンフィールド」です。いわてマリンフィールドでは、近年注目される持続可能な開発目標(SDGs)の掲げる17の目標のうち、14番目の目標である「海の豊かさを守ろう」はもちろん、そのほかにもSDGsの目標と重なる活動に取り組んでいます。ふるさと納税のお礼品提供も行ういわてマリンフィールドの滝澤 肇副理事長と、ふるさと納税担当の加藤 恵さんに話を聞きました。
リアスハーバー宮古
海に触れることで子どもたちに変化が
1999年に岩手県初の本格的な県営マリーナとして完成したリアスハーバー宮古は、同年に開催された全国高等学校ヨット選手権大会会場となりました。その後、2002年7月に特定非営利活動法人いわてマリンフィールドが設立され、2006年からリアスハーバー宮古の指定管理者となりました。同法人は、施設管理をはじめ、市内高校ヨット部のサポートや、小中学校を対象としたヨットやカヤックの体験教室を実施しています。滝澤副理事長はいわてマリンフィールドの活動についてこう話します。
地元の中学生を対象に実施した「シーカヤック体験」
「私たちは海洋スポーツの普及のため、法人を発足しました。2004年には『日本港湾協会企画賞(みなとを元気にする活動)』受賞、2007年に岩手県の『元気なコミュニティ100選』団体認定、理事長の橋本 久夫さんが2009年に『みなとまちづくりマイスター』認定などを受け、私たちの活動を評価いただいています。その上で、SDGsの14『海の豊かさを守ろう』に重なる活動の一つとして、宮古湾の清掃活動を実施しています。また、『海に学び』『海に親しみ』『海を活用する』をテーマに、子どもたちが海に触れ合う活動を繰り広げており、SDGsの4『質の高い教育をみんなに』という目標も海を通じた教育という意味では重なる部分があると感じています」
清掃活動の様子
いわてマリンフィールドの活動はこれだけでなく、「不登校児のシーカヤック体験」や「障がい者マリンスポーツ体験」などがあり、受講した方の変化を感じる機会が多いそうです。
「『不登校児のシーカヤック体験』は、不登校の子どもたちに達成感を感じてもらうことを目指し、1回目はまずシーカヤックに慣れてもらい、2回目では少し長い距離を漕ぎ、3回目には対岸にわたり昼食をとり、片道約1.5kmの距離を自分で漕いで往復するという独自プログラムを実施しました。この教室に参加した子どもが高校を経て大学まで行くことができたという話を聞きとても嬉しく感じました。
『障がい者マリンスポーツ体験』は、年齢や障がいの度合いも様々な人たちが集まる協会から、ほぼ機会がなければ接することができない海という場での活動を支えていただきたいとのことからはじまった体験です。
シーカヤックに細工をすれば一人で乗れる人や、2人艇でサポートのスタッフと一緒でなければ乗れない人など、それぞれのレベルに合わせて実施しています。一人では乗れないヨットやプレジャーボートに乗り、丸一日かけて楽しむプログラムです。カヤックの乗り降り、パドルを漕ぐことなど、すべての動きにサポートがなければ体験できないことのため毎年とても喜んでいただいています」(滝澤副理事長)
『障がい者マリンスポーツ体験』は2020年で17回目の実施でした。障がいのある子どもたちだけではなく、大人にとっても海に触れる機会は少ないそう。海に触れることで、心の解放につながり、社会・家庭生活になじめるようになることを目指しているそうです。SDGsでは3『すべての人に健康と福祉を』、10『人や国の不平等を無くそう』があり、この2つの目標に通じる活動といえます。
いわてマリンフィールド 加藤恵さん(左)、滝澤 肇副理事長(右)
新型コロナウイルスが与える子どもたちの心への影響
2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でシーカヤック教室を始め、各種マリンスポーツを楽しめる「宮古港ボート天国」や宮古湾内約17kmのコースで繰り広げられる「三陸シーカヤックマラソン」など、多くのイベントが中止となりました。4月の緊急事態宣言下では、5月までリアスハーバー宮古の閉所を余儀なくされました。一方で、意外な反応がありました。
「全国の小中学校で修学旅行の中止や、行き先変更が発生しているようです。そのため、感染者数が多い観光地を控え、行き先の変更を検討している学校から、リアスハーバー宮古での海洋スポーツ体験希望の問い合わせがありました。昨年は5、6校を迎え、今年もすでに3校の予定が入っています。市内には津波遺構の『たろう観光ホテル』もありますし、東日本大震災の震災学習を兼ねてこられる学校が多いようです」(加藤さん)
これまで様々な活動を通じて子どもたちと接してきたお二人からすると、修学旅行など各種学校行事の中止や休校など、新型コロナウイルスが与える子どもたちへの影響が心配とのこと。終息後は子どもたちのためにもこれまでと同じように活動ができるようになってほしいと話していました。
シーカヤックを体験する修学旅行生
震災を機に生まれた全国とのつながり
宮古市は2011年3月11日に発生した東日本大震災で、大津波により多くの尊い命、貴重な財産が奪われました。リアスハーバー宮古も津波で建物は柱以外すべて流されてしまい、施設が壊滅状態となりました。ヨット部の高校生たちが使用していたクラブハウスも流されてしまいました。
「震災後、高校生たちはどうすれば良いか、道が見えない状況の中で3年ほどはリアスハーバー宮古の復旧を待ちながら全国からたくさんの支援を受け練習を続けていました。北海道からヨット保管庫を提供してもらったり、木造の仮設住宅用キットを高知県から譲ってもらいクラブハウス代わりに高校生と共に組み立てて使ったりもしました。おかげさまで2013年のインターハイで宮古市内の宮古高校が優勝、宮古商業高校が準優勝するなど、震災復興のさなかに明るい話題を市民に提供することできました。こうした支援は高校生の精神的な面においても助けられたと思います」(滝澤副理事長)
2014年にはリアスハーバー宮古が復活し、いわてマリンフィールドは継続してヨット部の高校生をサポートしています。この経験から、NPOのネットワークを活用して支援をつのり、地域に貢献することができることも学んだそうです。
ヨット部の活動の様子
震災で廃棄処分となったヨットの帆を再利用してつくられる「Re帆バック」
いわてマリンフィールドがお礼品として提供する「Re帆バック(リホバック)」は東日本大震災の津波で廃棄処分になったクルーザーヨットのセール(帆)を再利用してつくられています。名前はRecycleと復活の意味を込めて「Re」をつけました。「Re帆バック」は5名でつくっており、1日につくれる上限は10個まで。縫い目が違うセールを利用するため同じ模様はなく、世界にたった一つのバッグです。耐久性・防水性にだけでなく、機能性にも優れています。
「震災前20艇あったクルーザーヨット(エンジン付き)が震災で1、2艇しか残りませんでした。船はリサイクルができず、廃棄する場合には産業廃棄物として廃棄費用も発生してしまいます。その中で、ヨットの帆だけは再利用できると思い利用方法を考えました。ヨットは20年以上使用することが多く愛着が残るため、ヨットの一部を再利用して、活かすことができるトートバッグはヨットオーナーからも好評です」(加藤さん)
ヨットオーナーの間で「Re帆バック」が広まり、県内だけでなく宮城県から廃棄となったヨットの帆を持ってこられることもあったのだとか。
いわてマリンフィールドがお礼品として提供する「Re帆バック」
持続可能な社会を目指して
一般的にふるさと納税では食品が注目されることが多い中で、Re帆バックには6件のレビューが集まっています。(2021年6月現在)
「Re帆バックはどこにも宣伝していないのですが、ふるさと納税での申し込みも多く、驚いています。リピーターの方が多いことも影響しているかもしれません。また、ヨットの帆からバッグに生まれ変わることで、ヨットに関係のない方でもバッグを通じてヨットの魅力を感じてもらい、喜んでもらえるのも嬉しいことです」(加藤さん)
ふるさと納税以外では市内のイベントや、都内で開催されている被災地応援イベントで販売されています。被災地応援イベントでも毎回リピートする方がいて、購入される方からの復興支援の想いが感じられるそう。
Re帆バックはSDGsの12「つくる責任つかう責任」に重なる活動といえます。SDGsとの関連性からもうかがえる通り、未来につながる活動に数多く取り組むいわてマリンフィールド。同法人の方々によって、地域の子どもたちや美しい海の未来が守られていると感じました。