2020/03/19
農家と共にふるさと納税で南信州の農産物をPR
丸中中根園 多角事業で飯田の美味しいを届ける茶業会社
長野県飯田市は長野県の最南端に位置し、東に南アルプス、西に中央アルプスがそびえ、その間を天竜川が南北に貫く谷地形にあります。飯田市は、2027年開業を目指すリニア中央新幹線の主要駅が飯田市内にできるのを機に、飯田ブランドの確立を官民で進めており、丸中中根園もその一躍を担う地域企業のひとつです。南信州産農産物の流通や、飯田市のふるさと納税お礼品提供などを手掛ける、丸中中根園専務取締役の笹原さんにこれまでの取り組みについて話を聞きました。
株式会社丸中中根園 専務取締役 営業本部長 笹原良祐さん
南信州産の農産物メインに飲食店を経営
丸中中根園は1975年に飯田市で創業。当初は静岡掛川茶の販売を手掛けていましたが、2001年に現社長が飲食業をスタート。飯田市の中心市街地でレストラン・居酒屋・焼肉屋など6店舗を運営するまでに発展しました。
「素材にこだわって、全国各地の産地から魅力的な食材を取り寄せてはメニューにしてきました。営業を続ける中で、地元食材を通じて生産者との交流が増えると、この地域の美味しい農産物が地域外の方に知られていないだけでなく、地元の人ですらその価値に気づいていないと感じ、メニューに取り入れたり、社員全員で圃場へ足を運ぶなどしてきました」
現在、丸中中根園が運営する飲食店では、南信州産の食材を使用したメニューを積極的に提供しています。特に好評なのは、新鮮な南信州産野菜が並ぶサラダバーで、飯田市民や観光客だけでなく、生産者にも好評だそうです。
「農家さんは自分たちが作った野菜の感想を消費者から聞くことはほぼ無かったようです。出荷して終わり。農家さんがお客として来た際に、来店客が『美味しい!』と目の前で喜んで食べてくれる姿を見られることは、農家さんのモチベーションアップにつながっていると感じます」
生産者にも消費者にも人気の、南信州産野菜が並ぶサラダバー
サラダバーにある農園や生産者の紹介コーナー
農家と信頼関係を構築
丸中中根園は飲食店経営のほかに、南信州の農産物の流通事業を行っており、流通先は百貨店やスーパー、県外の農産物販売所など。扱う農産物は自社生産の野菜だけでなく、丸中中根園が組織した「中根園生産組合」に加入する南信州の農家が生産したものです。当初の組合員数は70軒ほどだったそうですが、現在は約130軒の農家が参加するまでになりました。
「最初のころは期待通りに売上が伸びなかったことから、離れていく農家さんもいました。ただ、中には『売上は少ないけれど、地域のために提供し続けるよ』『丸中中根園は南信州の農産物をPRしてくれているから』と協力してくれる農家さんもいました。皆さんに支えられて現在があります」
農産物直売所ココロマルシェ
組合に加入する約130軒の農家が愛情をこめて育てた南信州の農産物が並ぶ
農家との連携が進むことで、商談会での説明にも変化が生まれます。南信州産のりんごをPRする際に「日照時間が長く、寒暖差が大きいから美味しい」と説明していた笹原さん。他の地域のりんごでも同じ説明をしていると気が付き、改めて特徴を農家に確認すると、ある若手農家が実際の日照時間や寒暖差の数値根拠など、裏付けを調べてくれたそうです。
「今の若い農家さんたちは3代目や4代目と、親や親せきから農地を引き継いだ人が多いですが、『受け身のままではいけない』『もっとPRしていきたい』と積極的な人が多い印象です。高度経済成長の中で農業に携わっていた親世代は"どれだけ出荷量を増やすか"を重要視していたそうですが、日本が人口減少に向かう中、若い農家さんは"生産した農産物がどれだけ高く評価されるか"を考える人が増えたと感じます。そして、大きな組織下ではなく、独自の動きを模索する人が多い。その中でたまたま我々のような、南信州の農産物を発信する活動がマッチしているんじゃないかと思います」
最近では、高齢化や後継者不足などから、耕作放棄地の利用打診や、収穫支援、地域産品である市田柿の加工なども、相談を受けるようになったそうです。
丸中中根園で加工され、干し上がりを待つ市田柿
ふるさと納税のお礼品提供で飯田の美味しいを全国へ
2015年から飯田市のふるさと納税お礼品提供事業者となった丸中中根園。ふるさと納税を新たな販路として、全国の消費者へ南信州の農産物を発送しています。『さとふる』に掲載している「桃」は、毎年在庫を増やすそうですが、すぐに予定数を終了するほどの人気だそうです。
「予想外の反響でした。おかげさまで『さとふる』さんの桃ランキングで1位を獲得しました。商談などでふるさと納税の反響を伝えると、取引相手にも評価され、ふるさと納税以外の販路開拓に役立っています」
丸中中根園が扱う南信州産の桃
ふるさと納税は広告の役割も果たしていると笹原さんはいいます。
「農家さんは作るだけでは生きていけません。どれだけ販売できるか、現金化できるかが大切です。売るためには南信州の農作物を知っていただく必要があるけれど、我々だけで全国に向けて宣伝することは難しい。『ふるさと納税は南信州の農産物の広告になっているよね』と農家さんたちとも話しています」
ふるさと納税を通じて丸中中根園を知り、寄付者から寄付とは別に電話で注文を受けることもあるそうです。
「お礼品きっかけで我々や飯田市を知っていただけたと思うと、ふるさと納税に農産物を提供してよかったと思います。『飯田市ってどこにあるんだろう?』と記憶にとどめてもらい、旅行などで長野へ来た際に立ち寄ってもらえる場所になると嬉しいですね」
南信州の農家と信頼関係をはぐくみ、成長してきた丸中中根園。お互いに刺激し合いながら南信州産の農産物を全国へ発信し、飯田市のファンづくりに貢献しています。