2018/12/18
網走ブランドを世界に向けて 最初の一歩「ケダマ」の魅力
牛渡水産 網走の「豊かな海の恵み」を全国に届ける
網走の毛ガニの美味しさに気づき、試行錯誤の末「ケダマ」を生み出した牛渡水産の牛渡貴士さんと、市の担当者として「網走の美味しいもの」の情報発信に取り組む網走市観光商工部ふるさと納税担当の篠原さん。二人三脚で歩むお二人にお話を伺いました。
網走市観光商工部 篠原宏寿さん(左)、牛渡水産 牛渡貴士さん(右)
網走の海の恵み、「ケダマ」の開発へ
鮮やかな赤と白のコントラストと美しい丸いフォルム。網走産の「毛ガニ」の向き身が、ボール(玉)」のように球状にうず高く盛られ、一度見たら目が離せなくなる「毛ガニの甲羅盛り」。北海道網走にある牛渡水産が作っている「ケダマ」です。
毛ガニの「ケ」と球状の形(玉)「タマ」で「ケダマ」。牛渡さんが名付けた
「ケダマ」を商品開発したのは、牛渡水産の牛渡貴士さん。網走で1972年創業の水産加工会社の長男として生まれ、現在は父親の会社を引き継ぐ、若き3代目です。牛渡さんはUターン組で、大学を卒業後、建築業界に就職。新築の住宅を設計・販売する仕事をしていました。やりがいを感じて働いていた時、言葉数の少ない職人気質の父親から、人生を変える一本の電話がかかってきました。
「ずっと網走に帰ってこいと言われていたんですけど、仕事を辞める気は全く無かったです。ただし、親父が腹を括ったように『もう店をたたむ』と話すのを聞いて、真剣に考えたんです」(牛渡さん)
家業を継ぐと心を決め、電話の翌々日には会社に辞表を提出し、3ヶ月後には地元網走に帰ってきました。
父親に弟子入りするかたちで仕事を始めた牛渡さん。水産加工の仕事を覚えながら、新商品の開発にも着手しました。目をつけたのは、「毛ガニ」。旨味が強く味が良いと人気は高いものの、全身を覆う硬い毛と鋭利な殻のために調理に手間がかかり、お得意様からも「殻を剥いてほしい」と頼まれることが多くありました。
「世の中には同じような商品が溢れていて、お客様はどれを買ったらいいか、判別が難しいと思うんです。普通に、ただ1匹の姿の毛ガニを売っても面白くないし、買ってもらえない。だから他にはないものを作ろうと思いました」(牛渡さん)
このお客様の声をヒントに、毛ガニの爪の先から殻の隙間まで丸々1匹の剥き身と味噌を全て味わえる「毛ガニの甲羅盛り」作りに挑戦します。北海道中の港にあがった毛ガニを仕入れては試作を繰り返す日々を過ごしました。いくつもの試作を重ねていくうちに、牛渡さんは道内のどの港でもなく、自分が毎日工場から眺めていた網走の海で採れる「網走前浜産の毛ガニ」が一番美味しいことに気づきます。
「網走の毛ガニは身が立っていて、赤い筋が奇麗に出ているし、味噌も明るい黄金色で甘みも強い。どこのものよりも、ダントツに網走のものが美味しかったんです」(牛渡さん)
美味しい毛ガニは見つかったものの、商品化はまだ道半ば。試作を続けます。新鮮な毛ガニの各部位を原形のまま取り出した剥き身を作るには、茹でる温度や時間を細かく管理するなど、高い技術が必要でした。繊細な剥き身は、強く押し付けると形は丸くはなるものの身が崩れ、食感も悪くなる。しかし、柔らかく盛りすぎると身の量が多いので入りきらない......等、1匹分の毛ガニの身を全て1個の甲羅に「球のように」丸く盛るのは至難の技でした。この難題を工場スタッフさんたちが熟練の技で乗り越え、美しい球状に盛り付けることに成功。このように試行錯誤を重ねること2ヶ月、ついに網走産毛ガニの甲羅盛り「ケダマ」が完成します。
加工や盛り付けは全て熟練スタッフの手仕事。匠の技が光る
全国の人に知ってほしい。「ふるさと納税」お礼品としての掲載
完成した「ケダマ」をPRする手段を考えていた牛渡さん。ちょうどその頃、「おいしいまち網走」を推進する網走市が、ふるさと納税のお礼の品の送付を始めるという話を耳にします。「全国の人に知ってもらえるチャンス」だと思い、網走市役所の門を叩きました。
その網走市で、2017年4月からふるさと納税担当をされているのが篠原宏寿さん。ふるさと納税を通じて、網走の美味しいものを広く全国の人に知ってもらおうと市内にある40以上の事業者をサポートしています。アイデアマンの牛渡さんは、新しい商品を思いつくたびに市役所に訪れ、篠原さんに話を聞いてもらうそう。すでに次の新商品の構想もいくつか進んでいるとのことです。
「一企業が世の中に出て行くのは非常に難しいと感じています。網走市というのはかなり大きな看板なので、市役所の方が広報的な役割を助けてくださるのはとても心強いです」(牛渡さん)
「私たちは商品を持っていないので、私ができることは写真をいただいて文章をつけて、一つ一つ丁寧に、その商品をご紹介していくことです。牛渡さんのようにどんどん世に出していこうという方には、そのお手伝いができればと思っています」(篠原さん)
篠原さん(右)は牛渡さん(左)の頼りになる相談相手の一人
「ふるさと納税」を機に感じた、「ものを作る喜び」
ふるさと納税への出品をきっかけに、「ケダマ」にはリピーターが少しずつ増えているそうです。さらに嬉しいオマケもあったそうで、例えば、ふるさと納税の寄付者から届くお手紙もその一つです。ある時は、手書きのメッセージに、「ケダマ」を手に持って笑う小さなお子さんの写真が添えられていたことも。また、ふるさと納税からのリピーターはメールやネットではなく、電話で直接「美味しかった」とコメントしてから注文されることも多いとか。
「こういうお客様の反応を直接感じられるのはすごく嬉しいですし、作ってよかったとやり甲斐を感じますね。スタッフにも伝えるんですが、みんなも喜んでいます。ふるさと納税は多くの方がサイトをご覧になっているので、商品をたくさんの人に知ってもらえる良い手段ですし、ふるさと納税という仕組みがあって本当によかったです」(牛渡さん)
モンドセレクション最高金賞受賞!「ケダマ」で伝える網走産の高クオリティ
牛渡水産の「ケダマ」は、モンドセレクション2018で優秀品質最高金賞を受賞しました。
2018年5月スペイン・バレンシアで行われた授賞式に招待された牛渡さん(中央)
世界の舞台に立った牛渡さんは、すでに世界的にブランド化されている「北海道産」を例に挙げながら、「北海道からもう一歩踏み込んで、北海道の『網走』というところまで根付かせたい。そこが目標です」と語ります。
「牛渡さんは地元が好きですよね。ケダマ愛はもちろんですが、話を聞けば聞くほど地元への思い入れがあるし、根底には網走愛があると感じます」(篠原さん)
「毛ガニがいいということは、網走は他の魚も質がいいということなんです。自分の会社の商品だけじゃなくて、網走の海産物はクオリティが良いんだと伝えたいですし、この海の底力を皆さんに知ってほしいです」(牛渡さん)
「ケダマ」をきっかけに、網走産全体のブランドの底上げをも目指している牛渡さん。大きな夢に向け、二人三脚での挑戦はこれからも続きます。