2018/10/09
希少な高級ブランドいちご「古都華」で奈良の町おこし
脱サラから就農、そして事業拡大。未来の農業人材の育成へ 奈良のいちごやさん
奈良のいちごやさん 青木健太郎さん
「古都華(ことか)」は奈良生まれの高級ブランドいちごです。奈良県農業研究開発センターが「7-3-1」と「紅ほっぺ」を掛け合わせて育成し、2011年(平成23年)に品種登録。濃いルビー色の果肉を一口ほおばれば、強い甘みの中に酸味がほどよく、味のバランスは抜群。12〜13度の高い糖度を誇り、身が固いので鮮度も持続するなど、高級品種の理由がうかがえます。「古都華」のふるさとに思いをはせ、生産者を訪ねてみました。
脱サラして新規就農者へ。やるからには希少な高級いちごで勝負
奈良・磯城郡の南、田原本町黒田は奈良盆地の中央に位置する平たん地で、町の東に大和川が流れています。田畑が広がるその一角に、ビニールの連棟ハウスが4棟。その中で育苗の作業中の青木健太郎さんが笑顔で出迎えてくれました。
「大学の頃から35歳くらいになったら経営者になってみたいという夢を描き、経済学部で学びました。それから税理士事務所、販売営業や飲食業などを経て、脱サラ。元々食べることが好きで、『これはどうやって作られているんだろう?』と考えることが多かったので、思い切って『なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)』に通い始めたのが新規就農者になるきっかけです」
土を触ったことすらなかった青木さんは、全てが試行錯誤の連続。苦労しながらも、自らでものを作る楽しさに手応えを覚え、一国の主として農業経営をする決意をしたのだといいます。
「奈良は農業産地ではないのですが、大和野菜、フルーツなど魅力的な品種がたくさんありました。『古都華』は香りと味も優れていて、見た目もルビーのように美しい。五感を刺激するブランドいちごです。奈良でしか作れないというところにも付加価値を感じました。」
奈良生まれの「古都華」
青木さんは、田原本町黒田に58aの農地を借り、ハウス2棟を完成。最初はジョウロで全苗に水をやったり、病気・害虫対策に苦労を重ねたり、日光の透過率を下げ温度上昇を防ぐための遮光資材を用いたりと、試行錯誤をしながらも、手塩にかけて愛情を注ぎ込み、おいしい完熟いちごを1年を通して育んでいます。
ふるさと納税の需要に応えるため、規模拡大、贈答用の梱包に切り替える
「イチゴ農家は年中、休みなしと多忙です。中でも『古都華』は繊細で病気に弱く、少しでも管理を怠ると全く収穫できないほど手間がかかるのですが、だからこそ12月〜5月の収穫期に、樹で完熟にした古都華を味わう時のおいしいこと。お客様にこの味を提供できると、全ての苦労が報われる気がします」
そんな青木さんが、事業の規模拡大をはかったのはふるさと納税のお礼品となったことがきっかけだそうです。
「参加開始当時『さとふる』で、『古都華』の掲載をしているのは2件しかなかったこともあり、反響の大きさは想像以上でした。最初の年なので300件も注文があれば上々と持っていたらなんと約1.5倍も。今期は収穫を増やすために連棟のハウスをさらに2棟増設し、農薬などは極力控えるなどさまざまな工夫を重ねました」こう話す青木さんは、届いたときの特別感の演出のため、包装の改良にも取り組みました。これまでの農協仕様の箱で配送をしていた梱包を見直し、プロデザインを依頼、また個々のいちごの形状にフィットさせて緩衝面積が大きい「ゆりかーご」という容器に入れ、繊細ないちごが傷つかないように固定、さまざまな点で注意を払ったといいます。
すると、こだわりが功を奏して、ふるさと納税以外にも贈答用の受注が一気に伸び、商品単価も40%アップ。他にも、春日大社への奉納の依頼や、近隣のカフェから「古都華パフェ」用に注文が入るなど、『古都華』の指名買いが増えたのだそうです。
贈答用を意識した包装にすることで商品の付加価値が上がった
「ふるさと納税のお礼品として取り上げてもらったことで、出会えるお客様の層も変わりました。全国の方に『古都華』を知ってもらうだけではなく、田原本町の地域を知ってもらい、寄付が集まることで町の潤いにつながればと考えています」(青木さん)
2021年の法人化をめざしてJGAPを取得。未来の人材育成にも力をそそぐ
青木さんは、「2020年に法人化を」という目標を視座にいれて、農業の効率化と需要拡大のためにさまざまな改善をはかろうと取り組んでいます。
「まず、農業のISOともいわれるJGAPの取得を進めています。JGAPはJA等の生産者団体が活用する食の安心・安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証制度ですが、日本の生産者で取得しているところはまだほんの一部です。認証を得ることで消費者の方に安心して召し上がっていただけることを知っていただけます。また、今後は収穫量を増加させるための増設だけでなく、町に人を呼び込むためにいちご狩り農園なども計画しています」
新規就農4年目の青木さんは、今、「なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)」の講師を務め、自身が苦労しながら事業を行ってきた経験を新しい世代に伝授していくことにも、力を注いでいるといいます。
「農業の面白さは、やった分は自分にちゃんと返ってくるし、やらんかっても返ってくる、究極の自己責任というところが一番ワクワクするんです。将来は奈良のいちご業界が田原本町からさらに大きく実っていけばうれしいです。これからは後継者を発掘する人材育成にも力を注ぎますよ」(青木さん)
今年の「古都華」はどんな出来栄えなのか、楽しみが募ります。