2018/09/18
新潟産よりも、阿賀町産として
越後ファーム 「阿賀町の米」の出荷量が大幅に増加
それまでに縁もゆかりもなかった土地で米の生産と集荷、販売を始めた、新潟県阿賀町の越後ファームは、その米作りに向き合う姿勢が地域や消費者の共感を得て、いまでは町を代表する存在のひとつになっています。ふるさと納税サイト「さとふる」でも2017年の年間人気お礼品ランキングTOP10にランクインしている越後ファームのこだわりを探りました。
雪国ならではの、こだわりの米作り
農業法人 越後ファームは、新潟県阿賀町にあるお米の生産と集荷、販売を手掛ける会社です。この会社の立ち上がりの経緯は少し変わっています。
もともとは東京の不動産会社で働いていた近正さんが、2006年に社長命令で稲作を始めたのがきっかけです。しかし、突然新潟で稲作を始めることへ地元の理解を得るのは簡単ではなく、新潟県の有名な米どころの地域をまわって農業を始めたいと伝えても、話もなかなか聞いてもらえないのが普通でした。そのような中で、受け入れてくれたのが阿賀町の農家ただ1人でした。
越後ファーム 近正宏光さん
越後ファームのこだわりは、とにかく美味しくて鮮度の良いお米を届けることです。そのために、生産だけでなく珍しい方法で米の管理をしています。
そのひとつが、雪蔵(ゆきぐら)の活用です。雪蔵とは、高さ約10mの蔵に雪を詰め込んだ天然の冷却室です。この冷却室をつかって、米を保管します。その効果は米を新鮮な状態で保存できること。機械の冷房装置よりも、雪蔵を活用したほうが、温度変化が少なく、適切な湿度を保ち、臭いも付きにくいのです。雪は最初の真っ白から、時間とともに循環した空気中の塵を吸着し、徐々に表面が黒くなっていきます。
2月頃の雪蔵の準備作業の様子
越後ファーム 工場長 齋藤聖さん
日頃は開けられることのないという雪蔵の前で(6月撮影)
空気中の塵を吸着し、雪の表面が黒くなっている
鮮度へのこだわりのもうひとつが、雪蔵今摺り米(ゆきぐらいまずりまい)です。名前の通り、雪蔵籾のついたまま保管した米を、出荷する直前に籾擦りして玄米の状態にすることを言います。通常は秋に収穫したお米を脱穀(籾摺り)し、玄米の状態にして保管し、出荷する前に精米します。一方で、雪蔵今摺り米は、そもそも脱穀をせずに、お米が籾に包まれたままの「生きた」状態で出荷を待ちます。玄米にした時点で米は「死んで」しまうので、鮮度を保つためには籾のままの保管が必要なのだそうです。ただし、これには非常に手間がかかります。収穫した米の籾擦りは、通常であれば新米の収穫のタイミングで全てを終えますが、越後ファームでは出荷の都度に実施するため、年間の作業工数が増えるのです。
雪蔵を活用して籾のままの保管されている米
それでも、越後ファームがここまで鮮度にこだわるのは、「お米を美味しく食べていただきたい」という想いからです。阿賀町の米の特徴は、その地形と気候にあります。阿賀町は新潟県の中でも内陸で山間部に位置するため、寒暖の差が厳しい地域です。平野の農地のように機械で一気に作業することができないため、非効率的で耕作には手間がかかり、効率的な大規模化には不向きであることも事実ですが、言い換えれば棚田が多いので、その分日照条件が良く、田んぼ1枚1枚に手をかけられるのが特徴です。そんな阿賀町で育った米は、甘みが強く、モチモチとした食感、さらに炊き立てではもちろん、冷えても変わらぬ美味しさが評判です。
このように、手間を掛けた阿賀町の米は、日頃は百貨店や内祝いなどで購入されることが多いのですが、最近ではふるさと納税を通して、より身近に消費者に食べてもらう機会が増えています。
ふるさと納税をきっかけに、阿賀町産米のファンが増加
「阿賀町のお米をブランドとして打ち出すための策として、ふるさと納税は非常に有効だと感じました。」(近正さん)
それは、越後ファームのこだわりのひとつに繋がっています。阿賀町産をうたった米の出荷量を増やして人々に知ってもらうことを使命としている越後ファーム。阿賀町で収穫されたお米を、そのまま阿賀町産として分かってもらえる形で出荷できていたのは、以前は阿賀町産の米全体のうちの僅かだったそうですが、ふるさと納税に参加して以降、知名度も上がり、いまではその割合が大幅に増えました。将来的な目標は、町の米の大半を阿賀町産として出荷すること。地域の農家さんの協力もあり、町の米が越後ファームに集まっていると感じているそうです。町をあげて、阿賀町産米のブランディングの勢いが増しています。
さとふるのお礼品ページにあるレビューも社員の意欲の維持や向上に役立っているそうです。
「阿賀町にはじめて訪れて、たくさんの生産者と意見交換をしました。その時に一番心に残っている言葉は、『自分で作った米を何処の誰が食べているか分からない、身内以外の人に美味しいって言われたことが無く作る張り合いが無い』ということでした。ふるさと納税で全国の方がレビューで美味しいって言ってもらえることが、作るモチベーションになっています。」(近正さん)
「さとふるのお米のレビュー数は、全ての米の中で越後ファームが最も多いんです。そのお礼品では、1万円の寄付のお礼として10kgのお米を用意しています。決して量は多くないのに選んでもらえる理由は、越後ファームのお米の魅力を、量という点でなく味や家族の評判などの質で評価してもらえているからだと実感しています。
また、『阿賀町のお米は美味しいのだ』というのは、生産者も私たちも理解はしていますが、たくさんのひとに評価してもらうことで、実感できるし、嬉しいし、励みになります。」(脇坂さん)
越後ファーム 脇坂真吾さん
実際に、レビューでは繰り返し注文している寄付者が多く見られ、阿賀町の米のファンになっている人が増加している様子が見られます。こういった声は、社員のモチベーション向上にもつながるため、社員全員で回覧しているそうです。
地域とのつながりを強める手段に
越後ファームの成長に伴い、町には新たな雇用も生まれています。越後ファームを受け入れた阿賀町と、越後ファームを立ち上げて真摯に米作りと向き合ってきた近正さん、ひとり営業を努める脇坂さん、従業員の皆さま全員のチャレンジ精神が強く束ねられたことで、町に新たな風が吹いています。
越後ファームでは、同じ阿賀町の事業者と協力して、「新潟奥阿賀の和食セット」として新しいお礼品を作成しており、それが他の特産品のPRのきっかけにもなっています。「よしだや」の新之助味噌や「奥阿賀産エゴマ使用の海苔佃煮」などはご飯と合う魅力的なご飯のお供です。
最初は"よそ者"であった越後ファームに、今では町の方々の方から声をかけるようになっています。
阿賀町の他のお礼品事業者とコラボレーションして提供している
お礼品「新潟奥阿賀の和食セット」のさとふる掲載画面
ふるさと納税を通した特産品PRや町おこしが目標
越後ファームでは、ふるさと納税に参加してからは、7月ごろより新米のお礼品の先行申し込みを始めています。
「お蔭様でたくさんの注文をいただくのでお約束はできませんが...、発送の目標は、新米の収穫後約1〜2週間で皆さまのもとにお届けすることです。ふるさと納税のお礼品であるとはいえ、一般の米の注文と同様に、できるだけ早くお届けするのが当たり前のはずです。」(脇坂さん)
ひと箱ずつ手作業でお礼品の梱包をしているため、昨年の年末お申込み分は実際には寄付者様へのお届けに1か月ほど時間がかかったそうですが、せっかく事前に申し込んでくれたので、召し上がる方のもとに早く届けたい、期待にこたえたいという気持ちが強く伝わってきました。
阿賀町の米は美味しいと知ってもらうことで阿賀町のPRを行なっている越後ファームですが、この他にも、地元開催のイベントとの連携や、阿賀町に訪れてみたいと思ってもらえるような取り組みも行なっていきたいと話す脇坂さん。町役場や地域の他の事業者と協力して町を盛り上げていこうという意気込みは、阿賀町にさらなる風を巻き起こしていきます。