2018/06/29
卵本来の素直な味わいを再現
岩田養鶏場 純国産鶏が産むこだわりの卵
鶏卵の市場価格が低迷する中、群馬県榛東村(しんとうむら)の岩田養鶏場では、品種と餌、育成方法にこだわり、「おいしい」といわれる卵づくりへの努力を続けています。
安心と安全を第一に、本来の卵が持つ、素直な味わいを再現しています。
安全な飼料でおいしい卵に
鶏卵は長年にわたって小売価格の変化が少なく、「物価の優等生」ともいわれます。しかし、今年はその市場価格が低迷し、過去10年で最低水準となっています。その原因は、需要が伸びない中で、生産量が過剰になっていることとされます。
「鶏卵価格が上がらない一方で、飼料価格は上昇が続き、業界は厳しい状況に置かれています。しかし、品種と餌、育成方法にこだわり、『おいしい』といわれる卵づくりを目指してきた私たちの経営は、その影響を受けていません」
群馬県榛東村の岩田養鶏場 専務取締役 岩田由弘さんは、こう言います。岩田養鶏場は1924年から養鶏に携わり、質の高い卵づくりに努めてきました。現在は鶏卵のほか、それを使ったプリンやカステラ、バウムクーヘンも製造、販売しています。その卵づくりでは、ニワトリの品種や餌の配合、育成方法にこだわり、卵本来の素直な味わいを再現してきました。
「昔から『卵の価格は変わらない』といわれますが、飼料の価格はどんどん上がっています。このような中で、多くの卵生産者は安い餌を求め、様々な添加物を加えた安価な飼料が開発されてきました。これは卵の品質を下げ、味のコクをなくす要因となっています」
岩田養鶏場では、余計な添加物は加えない飼料を使い、質の高い卵を作ることを目指してきました。飼料は自社で配合し、四半期に一度ほど、餌の品質や価格、産地等を見直す調整も行っています。
飼料には、魚粉、カニやカキの殻、ニンニク、ゴマ、そして炭焼きの際に発生する「木酢液(もくさくえき)」などを配合します。魚粉は卵の味にコクを出し、カルシウムが豊富なカニやカキの殻は、卵の殻を丈夫できれいなものにします。木酢液は、卵の臭みを抑えるのに役立ちます。おいしい卵を産むニワトリは、おいしい餌を食べて育つのです。
餌の配合は季節によって、いくらか変更します。夏の暑い時期はニワトリが水を多く飲むため、卵が水っぽくなり味も薄くなりがちです。しかし、餌に茶葉を加えることで、卵の味が引き締まり、水っぽさがなくなるそうです。
岩田養鶏場 岩田由弘さん
国産鶏をひよこから育成
岩田養鶏場で飼育されているニワトリは、純国産鶏(ジュンコクサンケイ)の「もみじ」という品種です。純国産鶏の品種は現在、「もみじ」と「さくら」の2種だけで、これらは国内で飼育されているニワトリ全体の6%程度に過ぎないといわれます。日本の食料自給率向上のためにも、純国産鶏にこだわっています。
また、多くの卵生産者が約1ヵ月後には卵を産み始める段階まで成長した大雛を仕入れているのに対し、岩田養鶏場では、生後間もないひよこから育てることにこだわっています。
「ニワトリは最初の育成が重要で、ここで失敗すると、その後の卵の質や採卵率に影響が出ます。強くて健康なニワトリを育てるため、私たちはひよこから育成しています」
それらのニワトリは、「ケージ飼い」で1羽ずつしっかり管理します。通常は、1つのケージに3羽入れるところを、2羽だけ入れ、たくさんの餌を食べて良い卵を産める環境を作っています。また、雛の水の飲み口は、少し高いところに設置しています。雛は上を向いて水を飲みますが、その際、少し背伸びをするように飲み口の高さを調整することで、雛が大きく成長するといいます。さらに、ニワトリには、目の前で何かが動くと条件反射でそれをつつくという習性があることから、餌を時々動かし、たくさん食べるようにしています。
国産品種へのこだわりや、餌や育て方に関する様々な工夫によって、良いニワトリが育ち、黄身が濃く、おいしい卵を産んでくれるようになるのです。
「どうすれば、私たちの卵が選ばれ続けるのかと毎日考え、工夫をしています。昔の卵のように濃厚な黄身の味わいで、お客様に『おいしい』と言っていただける卵ができるよう、努力を重ねています」
卵生産者だから作れる新鮮な卵を使ったプリン
これらの努力の結果、岩田養鶏場の卵は通常の卵の価格よりいくらか高い価格でも、順調に売れているそうです。その卵は、味に敏感な子どもたちにも愛されており、「うちの子どもは、他の卵を食べようとしません」という消費者の声も寄せられます。
おいしい卵をたくさんの子どもたちに食べてもらいたいという願いを込めて、岩田養鶏場では児童養護施設に卵を寄付する活動も行っています。県内7ヶ所の児童養護施設に、隔週で寄付しています。「子どもたちが大人になった時、『子どもの頃に食べていた、あの卵はおいしかった』と言ってもらえれば、この活動に意味があると思います」。
4年前からは、ふるさと納税のお礼品として、「岩田のおいしい卵と黄金プリンのセット」などの製品を、地元の群馬県榛東村に寄付してくれた人たちに届けています。黄金プリンでは、卵の卵黄だけを贅沢に使い、生クリームやバニラビーンズを加えて濃厚でとろけるような味と触感を出します。採卵から24時間以内の新鮮な卵を使い、卵の生産者だからこそ出せる味わいに仕上げています。
「製品をふるさと納税のお礼品にしてからは、プリンの出荷量が増えました。また、遠く離れた地域の人たちから、『おいしかった』という手紙をいただくこともあります」
また、ふるさと納税が新しい商品を生み出していると岩田さんは話してくれました。
「今までプリンは手作業で少量生産でしたが、ふるさと納税の寄付者からの需要も高まり、製造に機械を導入し、商品生産の拡大に繋がりました。さらに、通常少し傷のついた卵は廃棄となりますが、そのような卵を加工品として有効に活用することによって、食品ロスの減少につながっています」
ふるさと納税によって、群馬県の他の事業者との協力が生まれた事例もあります。岩田さんが中心となって、牛肉や野菜の生産者に声がけを行い、自社の卵を加えて、新たな商品となる「すき焼きセット」も生まれました。
消費者への直売では現在、養鶏場に直売所があるほか、栃木県那須塩原市にも販売所を設けています。本当においしい卵を消費者に届け続けるため、今後はさらに直売を増やしていこうとしています。