2020/02/12
"素朴さ"にこだわり稚内の牛乳を市内から全国へ
稚内牛乳 手間暇をかけ牛乳本来の味を届ける
日本最北端のまち、稚内市は広大な大地と冷涼な気候により牧草を育てるのに適しており、日本でも数少ない放牧型酪農適地。その稚内市にある稚内牛乳はJAわっかないを母体とし、稚内産乳製品の製造・販売を行っています。牛乳の消費低迷が叫ばれる今、稚内産の牛乳のおいしさを知ってほしいという想いから、直売所のほか、観光施設や空港、地元スーパーなどへ"地元密着型"の商品を展開。そんな稚内牛乳の特徴や、ふるさと納税による効果を稚内牛乳 店長の佐々木陽一さんに聞きました。
そのままの牛乳にこだわる
消費地である都市部まで距離があるため、十数年前まで稚内産のほとんどの生乳がバターやチーズなどの加工乳製品にされていました。市内や周辺の住民が市外で生産された牛乳を飲んでいたことから、稚内産の牛乳のおいしさを知ってもらうために生まれたという稚内牛乳。
稚内牛乳
稚内で育った生乳だけを使用した成分無調整牛乳
稚内の気候風土を生かし、手塩にかけて育てた牛から生産された牛乳は、ほかとはどう違うのでしょうか。
「牛乳本来の味を大切にしています。低温殺菌法・ノンホモジナイズドの2つがこだわりですね。
まず1つ目の『低温殺菌法』は、昔ながらの殺菌方法。広く流通している牛乳は2.3秒でほぼ滅菌状態にできる『超高温殺菌法』なのですが、稚内牛乳が採用している『低温殺菌法』は、65℃で30分ゆっくり時間をかけて殺菌します。この方法だと一部の高温耐性菌を殺菌する事ができないので、消費期限が少し短くなってしまいますが、『超高温殺菌法』特有の焦げ味がなく、牛乳の風味そのままを感じることができます。稚内牛乳とほかの牛乳を比べると、鼻に抜ける感じが違います。臭みを感じないんです。
次に2つ目の『ノンホモジナイズド』。現在広く流通しているのは『ホモジナイズド牛乳』ですね。生乳は放置するとクリーム分の水と油が分離するので『ホモジナイズド牛乳』は、それを機械的に脂肪球を細分化してクリーム分が分離しないようにしています。しかし、これによって牛乳本来の風味が損なわれてしまうので、稚内牛乳はあえて"そのまま"なんです。これがもともとの牛乳。なので『飲むときは振ってください』といっています」
作業風景
手間暇をかけて「ほかとは違う牛乳」を届ける稚内牛乳。製造時間・消費期限の面から大量生産・大量消費が難しいですが、生産地域ならではの地域に根ざした牛乳といえます。
昔ながらの製法で味に違い
こういったこだわりの牛乳を使って、ソフトクリームやアイス、のむヨーグルトを展開しています。
「牛乳は日持ちしないので、牛乳そのものの味を生かした加工乳製品も展開しています。稚内に来たことがない人も、アイスを食べて、稚内牛乳のカタログを見て、『牛乳もあるんだ、飲んでみたい』となることを期待しています」
ソフトクリームやアイスも昔ながらの製法でつくっているそう。
「ソフトクリームは牛乳と生クリームと砂糖、アイスクリームは牛乳と生クリームにグラニュー糖、それにスキムミルク。これをメインにしています。原価を下げてたくさんつくろうと思えば、バターや練乳、水あめなどを加えて粘りを出すことができるのですが、それは、うちが大切にしている"素朴さ"とは違うので、それらを加えることはしないです。なので、溶けやすいし、分離もしやすいし、空気も入りにくいので作り手からすると良いことは少ないんですが、その分加工乳製品でも、まさに生乳、牛乳そのものの味を楽しんでもらえます」
店舗で大人気のソフトクリーム
牛乳の味をしっかり感じるが、臭みがなくすっきりした味わい
素朴さゆえにすぐに溶けてしまい、溶けるとまさに「牛乳」
ふるさと納税で取扱量が倍に
"地元密着型"の稚内牛乳の商品は、稚内市の定める「稚内ブランド」に認定されていることもあり、2016年から『さとふる』でお礼品提供を行っています。ふるさと納税を始めたことによる変化を伺いました。
「アイスクリームの提供からはじめたのですが、たくさんの寄付をいただいたことにびっくりしました。特に年末は注文数の桁が違ったので驚きましたね。
あとは『さとふる』のレビューでおいしいと思ってもらえていることを確認できるのはうれしいです。"素朴さ"を売りにして、一般の乳製品とは特徴が異なるので、間違っていなかったということを再確認できたのは一番大きかったと思います」
常に『さとふる』アイスランキング上位にランクインする
アイスクリーム4種12個セット
ふるさと納税で好評を得た稚内牛乳。「ふるさと納税のお礼品提供を始めたことで、アイスクリームに関しては取扱量が倍近くになりましたね」
観光客が減少する季節でも安定した売上につながり、年間の売上の平準化にもつながっていることを教えてくれました。
新しい特産品 のむヨーグルト
ふるさと納税でアイスクリームの人気が高まり、新しい商品が生まれました。
「ふるさと納税で支持を得られたことで、我々はもちろんJAわっかないも自信を持って、稚内牛乳の事業にもっと力を入れていこう!と機運が高まったように思います。
その流れで2018年に生まれたのが、のむヨーグルトです。牛乳だとどうしても日持ちしないので、アイス以外で道外に届けるにはどうしたらいいかとなった時に、ヨーグルトを思いつきました。同じ液体でも、牛乳の倍くらい日持ちするんです」
2018年に誕生したのむヨーグルト
材料は稚内産生乳と北海道産ビートから作った砂糖のみ
のむヨーグルト開発の際、ほかのふるさと納税のお礼品を取り寄せて味を比べたりしたそう。
「『ほかではこういうことやってるんだ』『うちでも真似できることはないかな』と参考にしています。のむヨーグルト以外でも『ここを真似してこうしてみたいな』とか。店舗にいると、こういった他社の情報が入ってこなかったので、活用させてもらっています。同じ土俵でいろんなところがやっているんだなと思いましたね」
こうして生まれたのむヨーグルトは、稚内ブランドにも認定され、稚内市の新たな特産品になりました。
様々な乳製品の展開に期待
最後に、今後の展望を伺いました。
「まずは、2018年に販売を開始したばかりののむヨーグルトを確立させるのが前提。それから、現在5種類あるアイスクリームの種類を増やしたり、固形タイプのヨーグルトも作ってみたいです。最終的にチーズ作りにも挑戦したいと思っています。あとはそれをどう実現させるか、ですね」
稚内牛乳 店長 佐々木陽一さん
「稚内という一番端っこの土地のアイスクリームを選んでくれた人には、うれしいというか、感謝の気持ちが一番ですね。はじめは『月10件くらい注文が入ればいいよね』と話していたくらいで、全国的に有名というわけではなかった中で選んでもらえたというのが一番うれしいかな。今後も頑張りますので、よろしくお願いします」
ふるさと納税の寄付者へ伝えたいことを聞くとこう答えた佐々木さん。これからも"素朴さ"にこだわる乳製品づくりに邁進する稚内牛乳から目が離せません。