宮城県加美町 コロナ禍で寄付額が昨対比2.5倍
加美町は宮城県の北西部に位置し、ブナなどの豊かな森林を有する"船形山(ふながたやま)"や、加美富士と呼ばれる"薬萊山(やくらいさん)"がそびえ、四季折々の自然とアウトドアが満喫できる町です。2017年12月から「さとふる」での受け付けを開始した加美町は、2020年の寄付額が昨年対比で約2.5倍となりました。寄付額増加の背景について企画財政課の渋谷勇太さんにお話を聞きました。
町の仲介により実現した"コラボお礼品"
加美町では2019年から2020年にかけてお礼品数は271品から1,005品になったことが、寄付額増加にもつながったといえます。お礼品拡充のために取り組んだうちの一つがコラボお礼品です。加美町のコラボお礼品の中には、一般流通していたものはなく、ふるさと納税をきっかけにコラボレーションが実現したものばかりです。まったく異なる製品を扱う2つの会社が1つのお礼品をつくることに弊害はなかったのでしょうか。
「たとえば希少な国産牛タンを扱う有限会社関精肉畜産と、明治36年創業の老舗蔵元、有限会社今野醸造のコラボレーションでは、今野醸造の塩麹や味噌などで味付けした『厳選国産牛タン1本丸ごとスライス3種類セット(約1kg)』が誕生しました。この2社は地域を盛り上げる事業者としてお互いに面識があり、話し合いは円滑に進みました。今野醸造さんは、調味料だけではなかなか寄付者に注目されにくいとの悩みがあり、一方関精肉畜産さんでは国産牛タンを地場産品として提供する方法において試行錯誤していたため、双方にとってよい話でした」
厳選国産牛タン1本丸ごとスライス3種類セット(約1kg)
その後もコラボお礼品開発が続きます。加美町には創業100年以上の酒蔵が3軒あり、それらの酒蔵から日本酒が届く定期便も誕生しました。
「"美味しいお酒のまち"として、以前から実現したいとの想いもあったのですが、どこの酒蔵が窓口となるかや実際の事務の流れはどうするのかなど実現に向けた課題は山積みでした。各蔵や係内で協議を重ね、温泉宿泊施設や観光物産館など19の施設を運営する『加美町振興公社』を窓口とすることで実現することができました。加美町振興公社と各酒蔵間の調整に苦労しました」
寄付者からは「父親の地元のお酒が一度に楽しめるのは嬉しい」、「毎月どんなお酒が届くかワクワクする」というような声もあり、好評なんだそう。
加美町企画財政課の渋谷さんをはじめ、同じく企画財政課の門間さんや奥山さんが事業者の仲介に入ったり、商品化への問題がないか各所へ細かな説明をしたりすることでコラボお礼品が実現したのです。
ふるさと納税をきっかけに新たな地場産品の開発・発掘につながったといえます。
また、現在はふるさと納税でしか手に入らないコラボお礼品ですが、今後、加美町振興公社がECサイトを立ち上げ、コラボお礼品を町の特産品として取り扱う予定です。事業者にとってはECサイトを活用して販売できることが期待されています。
ワーケーションへの対応も進む
加美町の寄付増加の背景にはそのほかに新型コロナウイルスの感染拡大による巣籠りの影響もあると考えられています。特に町内にある江崎グリコの仙台工場で生産した「江崎グリコレトルト食品詰合せ(計10種 17食分)」が加美町で2020年に最も選ばれたお礼品だったことにも表れています。
江崎グリコレトルト食品詰合せ(計10種 17食分)
一方、お礼品提供事業者の酒蔵などでも新型コロナウイルス感染拡大による影響がありました。居酒屋の休業や時短営業により受注が減ってしまうなどの経済的な被害もあったそうです。加美町では「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う加美町新商品開発・販路拡大支援事業助成金」や「加美町飲食店等事業継続支援金事業」などの事業者支援を行っています。加美町振興公社が新たに立ち上げるECサイトにも一部交付金を活用し、運用していく予定です。
また、加美町振興公社が運営する「やくらい林泉館」、「やくらいコテージ」、「中新田交流センター」などの宿泊施設では新型コロナウイルスに伴う社会変化に応じたワーケーションの対応も進めています。フリーWi-Fiなどの環境整備やコワーキングスペースへの一部改装を行い、ワーケーション受け入れの準備を進めています。
薬萊山の麓にある「やくらいコテージ」 ワーケーション対応が進められている
ふるさと納税を活用し"音楽のあるまちづくり"を広める
新型コロナウイルスなどの影響もあり2020年の寄付額が増加した加美町。では寄付金はどのように活用されるのでしょうか。
「加美町では『活力あるふるさとづくりのために』『ふるさとの未来を担う子ども達のために』『ふるさとの自然環境を守るために』の3つの寄付金の使い道を設け、寄付者に選んでもらっています。2020年は『活力あるふるさとづくりのために』への寄付が最も多く、そのうちの約半分の寄付金を観光施設へ充当する予定です。観光業は新型コロナによる影響も大きく、その支援につながると考えています」
観光施設の充当先の1つとして挙げられるのが、町が保有する「中新田バッハホール」です。加美町は「音楽のあるまちづくり」を掲げており、それを象徴する施設といえます。そんな「中新田バッハホール」では市民オーケストラ「バッハホール管弦楽団」により毎年ニューイヤーコンサートが開催されています。加美町のふるさと納税では、このニューイヤーコンサートでの指揮者体験プランをお礼品として提供しており、実際に2020年1月19日に開催されたコンサートでは、該当寄付者による指揮のもと演奏が行われました。
「中新田バッハホール」 寄付者の指揮による演奏が行われた
「活力あるふるさとづくりのために」に集まった寄付金は、そのほか県指定無形文化財の"中新田の虎舞"が行われる「初午まつり」や、「柳沢の焼け八幡」などの祭りを運営するための費用などに充てられる予定です。
毎年4月29日に行われる初午まつり「中新田の虎舞」
「ふるさとの未来を担う子どもたちのために」に集まった寄付金は、毎年行われる元プロアスリートの選手を招いた「夢教室」実施費用のほか、加美町産食材を使用した学校給食の提供などへの活用を予定しています。「ふるさとの自然環境を守るために」に集まった寄付金は、主に町の土地面積のうち7割以上を占める森林の保全に充てられる予定です。
"加美町ならでは"を発掘しお礼品の新たな価値を創造する
コラボお礼品のほかにも加美町には音楽のまちならではの「アルト・テナーサックス・ユーフォニアム・チューバ(ピストン式)メンテナンス体験券1枚」やスポーツが好きな町長による「加美町町長と一緒にボルダリングセッション(90分コース)参加チケット」など、ユニークなお礼品が多く見られます。今後新たなお礼品の展開はあるのでしょうか。
「コラボお礼品では、関精肉畜産さんのラム肉とジンギスカン屋さん『やくらいハイツ』のタレを使ったラム肉の加工品などを開発中です。関精肉畜産さんは多くのコラボお礼品に協力してくださっていて、新たなコラボレーションの提案があることはふるさと納税による効果を実感している証拠だと感じています。コラボお礼品以外では、町長自ら毎月体験型お礼品を発案してくださっており、プロスポーツチームとの交流体験も検討しています。そのほか加美町振興公社で扱う地場産品がランダムに届く定期便や、世界農業遺産を活用した町内ツアーパックなど、加美町に足を運び、ゆくゆくは移住したいと思ってもらえるようなお礼品づくりも検討しています。"加美町ならでは"であることを意識し、コラボレーションなどによってお礼品の新たな価値を創造するべく、これからもお礼品の発掘や開発を行っていきたいです」
お礼品をきっかけにシティプロモーションにつながった事例を伺うことができました。これから続々と登場する加美町の新しいお礼品も楽しみです。