信州市田酪農 製造から販売までを一貫して行う農業生産法人
長野県南部の中央アルプスと南アルプスの間を天竜川が流れる伊那谷に位置する長野県高森町。南信州で育てている生乳のみを原料に乳製品を製造する信州市田酪農は、酪農家たちが乳製品の製造から販売までを一貫して行う農業生産法人です。2019年に25周年を迎えた信州市田酪農の代表取締役社長を務める富永渡さんに、これまでの歩みやふるさと納税の反響について伺いました。
酪農家たちの想いが結実し誕生した「信州市田酪農」
酪農家が生産した生乳は大手メーカーを経由して消費者へ届けられることが多く、そんな状況に疑問を感じた高森町の酪農家たちは、自分たちの手で消費者へ乳製品を届けたいと、1966年に現在の前身となる「新生市田酪農組合」を発足しました。
「大手メーカーの元での安定を捨てることになりますから、町の酪農家は賛成派と反対派に分かれました。何度も話し合いを重ねてやっと組合が誕生したんです」と語るのは、代表取締役社長を務める富永さんです。
農業生産法人 株式会社信州市田酪農 代表取締役社長 富永渡さん
その後、農産物の輸入自由化が進むなか、組合の女性たちを中心に「私たちが作った牛乳やヨーグルトを町の人に飲んでほしい」と機運が高まり、1995年に酪農家たちが資金を出し合って工場を建設しました。
「小さな工場で十分だと思っていたけれど、稼働してわずか4か月後に増設することになったんです。酪農家たちが高森町内の約1,300戸1軒1軒を歩いて周ると、半数以上の約700戸が契約してくれました。さらに、町外に住む親族や友人に勧めてくれたことにより、口コミで注文が増えていきました」
右側部分が最初に建設した「信州市田酪農」の工場
左側に増設を繰り返し、横に長い建物になった
信州市田酪農の工場には販売所を兼ねたコミュニティスペースが併設されています。
「単なる製造工場にはしたくありませんでした。支えてくれている町の人たちが喜ぶ、地域の人たちが集まれる場所を作りたかったんです」と富永さん。
テーブルと椅子が置かれ、壁の一部をガラスパネルにして工場内部の様子を見えるように工夫がされています。販売スペースには信州市田酪農の製品や、地域の選りすぐりのお土産品などを販売しており、高森町民や観光客が日々訪れています。
エントランス前にある花壇は「牛乳工場女性の会」が管理し、訪れた人を出迎える
ふるさと納税を通じて酪農家の誇りと情熱を全国へ
地域への戸別配達と、口コミで各地へ販路を広げた信州市田酪農は、高森町のふるさと納税のお礼品になったことで、さらに全国へ届けられるようになりました。現在は売り上げ全体の10%以上がふるさと納税による収益だそうです。
高森町周辺へは専用車で信州市田酪農の製品を届けている
「高森町がふるさと納税を始めた初期から参加しているので一緒に高森町のふるさと納税を取り組んできたという自負を持っています。高森町の酪農家の誇りと情熱をこめて作った信州市田酪農の製品を、ふるさと納税を通じて高森町のお礼品として全国へ届けられるのは素晴らしいこと。
ヨーグルトというと乳酸菌など健康面の効果を注目されがちですが、ヨーグルトの味そのものを楽しんでもらえるのが信州市田酪農のヨーグルトです。『さとふる』に投稿された寄付者さんのレビューでは、ヨーグルト本来の味に驚いてくれる人が多く、とても励みになっています」
信州市田酪農の一番人気、飲むヨーグルト「いちだヨーグルト」 (右)と
消費者からの要望を受けて開発された砂糖不使用の「いちだヨーグルトNS(ノンシュガー)」
信州市田酪農のお礼品レビューには「こんなに美味しいヨーグルトを初めて食べた」「濃厚なのに、くどくなくさっぱりしている」「市販のヨーグルトとは比べものにならないくらい美味しかった」などの寄付者からの声が寄せられています。
『さとふる』を通じて信州市田酪農を知った寄付者がファンになり、通信販売の注文数が増加したそう。毎年寄付をするリピーターもおり、着実に高森町や信州市田酪農のファンを増やしています。
酪農家の支援が今後の鍵
工場の稼働から25周年を迎えた信州市田酪農の今後について聞きました。
「今の課題は酪農家の後継者育成です。スタート時、酪農家の数は高森町だけで40戸いましたが、現在は飯田下伊那地域全体で40戸未満になりました。国際化や貿易の自由化の波が迫り、乳牛の購入費用は組合発足当時の倍以上になるなど、酪農を取り巻く状況は悪化しているといえます。すぐには難しいと思いますが、信州市田酪農を通じて、乳製品を作るだけではない、地域の酪農家の支援につながる取り組みをできないかと考えています」
南信州産の生乳にこだわってヨーグルトを製造する信州市田酪農にとって、酪農家の減少は死活問題となります。「酪農家には牛を育てる喜びを感じてほしい」と願う富永さんや信州市田酪農の模索は続きます。