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2018/10/11

障害者の夢をカタチにして"日本一"

亀吉 相手の幸せを願う心でパン作り

①RS_★ND5_2623.png「パン遊房 亀吉」施設利用者の皆さま

明治時代以来、多くの文人墨客に愛され独自の地域文化を育んできた町・鵠沼海岸(神奈川県藤沢市)。その一角にあるパン屋さんが今、注目を集めています。

「パン遊房 亀吉」― 2017年11月に藤沢市のふるさと納税のお礼品に選ばれ、わずか2カ月後の2018年1月には、ふるさと納税サイト「さとふる」のパン部門で、全国第1位に輝いたパン屋さんです。ここは就労継続支援B型施設で、パン作りから販売まで、担当しているのは施設の利用者の方々でした。

社会に向け開かれた施設作りで夢をカタチに

「パン遊房 亀吉」は、NPO法人「シニアライフセラピー研究所」が運営する30以上ある事業のひとつです。
理事長の鈴木しげさんは、ホームヘルパーとして活動していましたが、福祉の世界が次第にビジネスライクで冷たいものに変質していく状況に危機感を覚え、人々が"幸せ"を実感できる福祉を実現するために、2006年にこのNPOを立ち上げたと言います。
 鈴木さんは、以降、地域が抱える数多くの社会課題解決に奔走しましたが、やがて障害者向け支援が少ないことを痛感し、2013年「福祉コミュニティカフェ亀吉」をオープンします。そして、ここで働いていた障害をもつ女性の「パン屋を開きたい」という夢をカタチにしたものが「パン遊房 亀吉」でした。

  

②RS_★ND5_2480.pngNPO法人「シニアセラピー研究所」理事長 鈴木しげさん

  

 「ひとりの夢(ニーズ)をかなえることで、実は多くの人の夢(ニーズ)の実現につながることが、このケースを通じてわかりました」(鈴木さん)

しかし、「パン遊房 亀吉」には根っからのパン職人はいません。雑誌のカメラマンをしていた人など、様々な経歴をもちながらも障害ゆえに一般就労が難しい方々です。どのようにして日本一のパン屋さんになったのか、鈴木さんが話してくれました。
 日本の福祉施設は一般に社会との関わりの希薄なところが多く、自分や家族などが障害を負わない限り、その存在を意識することは多くありません。ところが、鈴木さんは「地域に向けて開かれた場作り」を志向しています。

「通常、福祉施設は身体・知的・精神の3障害者を分けますが、私たちは分けません。それどころか認知症の方々や地域の子どもたちなどを加え、地域の一般の方々が日常的に出入りし自由に交流できる場をつくっているのです」(鈴木さん)

「亀吉鵠楽部(かめきち くらぶ)」という地域交流サークルをつくって、地域の人々のさまざまな困りごとを解決したり、子ども会活動をしたり、ボランティアスタッフの登録をしてもらったり...と鈴木さんは活発な活動を展開しています。
会員数は約1100人で内300人ほどがボランティア登録をしていますが、そこにはプロのパン職人がいたり、健康食に詳しい人がいたり...とメンバーは実に多士済々。美味しいパンを作り、パン屋さんを経営していくにはどうしたら良いのかというノウハウは、そうした方々から次々にもたらされたのです。

お客さまに幸せを感じていただくために

もちろん、パンを作り販売する"主役"は障害をもった施設利用者の方々です。さすがに最初は苦労したようで、「初めの頃は美味しくなかったですよ(笑)。でもいろいろな種類をつくっていくうちに、徐々に美味しいと思えるパンを作れるようになっていきました」とある利用者の方は回想します。

  

③RS_★ND5_2555.png実は「パン」より「ごはん」が好きだった言う利用者さん。
お客さんに"おいしい"と言われることで
自身もパンをよく食べるようになったと教えてくれた

  

 「パン遊房 亀吉」のパン作りの基本は、「お客さんはどんなパンを食べたら幸せを感じるだろうか」と相手の立場に立ち、「自分だったらこんなパンを食べたい」という想いを追求することにあります。
 そのため、原材料についても徹底的にこだわり抜き、国産の上質かつ安心安全な素材をふんだんに使う現在のやり方になっていきました。

日々接客にあたる利用者の方はこう明言します。
「"美味しい"と言ってくださるのは、もちろんうれしいですが、それ以上にうれしく、そしてありがたいのは、"どうすれば、もっと良くなるか?"を率直に言ってくださるお客様です。そのような意見に対して、利用者の方は敏感です。」これには、お話を伺った際にその場にいた利用者の方々も、一斉に大きく頷いていました。

  

④RS_★ND5_2694.png管理が行き届いた工房。「パン遊房 亀吉」では
職員はなるべく見守る側に徹し、
利用者が自発的に作業ができるようサポートしている

  

 このような皆さんらしく、2017年に藤沢市のふるさと納税のお礼品に選ばれたときも、真っ先に行ったのは、ふるさと納税で自分たちのパンを選んでくれるお客さんはいったいどんな人々なのかを知ることでした。そして、どうすれば、その人々が幸せを感じてくれるか検討を重ね、職員を中心に「ちょっとづつたくさん食べられる」新商品を開発したのです。こうした姿勢はたちまち、ふるさと納税をする人々の心を鷲掴みにします。わずか2カ月後には、「パン部門」全国1位に躍り出たのです。社会に向けて開かれた施設作りを目指す鈴木さんらはプレスリリースを配信。これをきっかけに「パン遊房 亀吉」は新たな段階を迎えます。
   

⑤RS_ND5_2638.pngふるさと納税のお礼品用に、パンを通常の半分のサイズにし、
たくさんの種類を楽しんでもらえるようにした

かけがえのない存在として輝く

世間からの高まるニーズに対応するために、「パン遊房 亀吉」ではオンラインショップを開設し、その顧客層は首都圏を中心に全国各地へと拡大します。また、地元周辺のお祭り・イベントへの出店依頼も増えました。
売上は倍増し、利用者の方々の工賃も増えました。

  

⑥RS_kamekiti.pngパンは丁寧に一つずつ梱包し、16種もあるためシールを貼っている

  

 プレスリリースの影響から、各方面から取材も来るようになり、新聞などに記事が掲載され、パン作りや販売に励む利用者の方々の写真を見かける機会が多くなりました。新聞を見て来店してくれるお客さんたちも多くいらっしゃるそう。
利用者さんは、近所の方に「新聞を見た」と声をかけられて嬉しかったと教えてくれました。

鈴木さんは利用者の方々のある"変化"を指摘します。
 「新聞などに記事や写真が出ることで、みんな自尊心が高まり、スキルがより一層高まりました。そして、一般就労に向けて意欲的に取り組み始めています」(鈴木さん)

 デール・カーネギーの世界的名著「人を動かす」の中で「重要感を満足させることで人は自ら動く」と述べられていますが、「パン遊房 亀吉」でパン作りや販売にいそしむ皆さんもまた、自尊感情が満たされることで、人生のネクストステージに向けて新しい一歩を踏み出そうとしています。
 そして、それを誰より喜んでいるのは、言うまでもなくご家族です。
  

⑦RS_★ND5_2676.pngお昼のピークタイムを終えると、パンを袋詰めする。
利用者さんの生き生きとした表情が印象的な一枚

  

もちろん「パン遊房 亀吉」自身も進化を止めません。2018年7月に東京・小川町にオープンした日本初の国産麦アンテナショップ「むぎくらべ」に定期的にパンを出品することも決まりました。
「それだけではありません。従来の『福祉コミュニティカフェ亀吉』を『マンマミーヤ』として2018年10月にリニューアルオープンします。ここではパン生地を活かしたピザを提供する予定です。『マンマミーヤ』では、"福祉施設"ということは打ち出さず、純粋にイタリアンレストランとして勝負したいと思っています」と鈴木さんは力強く語ります。

 障害をもつ人々の夢を育み、それをカタチにすることを通じて、鵠沼海岸はもとより全国の人々の幸せを紡いでいく「パン遊房 亀吉」。これからの飛躍が楽しみです。