北海道富良野市 合同会社中山農園 農業の高齢化・後継者不足に一石を投じる
富良野市(ふらのし)は北海道の真ん中に位置します。北海道の内陸部で大雪山系と夕張山系に囲まれた富良野盆地の中心都市です。十勝岳連峰を臨むラベンダー畑の風景が有名で、多くの観光客が訪れています。
また空知川がもたらす肥沃な大地からは、「安全・安心」な品質の高い農産物が生産されています。中でも「富良野メロン」はふるさと納税でも人気が高い、富良野市を代表するお礼品です。合同会社中山農園は、そんな富良野市が誕生する前からメロンづくりをはじめて半世紀以上の歴史があります。
富良野市のふるさと納税をけん引するメロン農家 中山農園の中山 慎一代表と吉崎 国広さん、富良野市総務部シティプロモーション推進課 小國 直道さんにお話を伺いました。
言葉や世代の壁を越えたメロンづくり
中山農園は富良野市の山部(やまべ)地区にあります。山部地区は芦別岳(あしべつだけ)のすぐ麓にあり、土壌は石が多く水はけがよいため、お米やメロンの栽培が盛んです。富良野は周囲を山に囲まれた盆地で、夏は30℃以上・冬は-30℃以下になる非常に寒暖の差が大きな地域です。さらに芦別岳から吹き下ろす冷たい風が朝晩の気温差を生み、それにより美味しいメロンができます。
芦別岳
父の死をきっかけに27年ほど前から後を継いだ中山代表は2022年に合同会社を設立しました。
「富良野市では、過疎化やJR・郵政の民営化などの国策の影響で長い間人手不足が進んでいました。福利厚生などを充実させ、雇用促進にもつなげられると考え、合同会社を設立しました。それでもやはり人手不足は解消されず、15年ほど前からは外国人労働者の採用も始めました。
弊社の平均年齢は30歳前後と周辺農家と比較しても若いことが特徴です。外国人を雇用することで、20代も多く、他の従業員も刺激を受けています。言語に関しては3か月ほどで上達するため、毎日話しかけるように心がけています。社員全員が笑顔で仕事をできる環境づくりも意識しており、それにより弊社に人が集まりやすくなっていると感じています」(中山代表)
中山農園では社員への誕生日プレゼントや、社員が使用するトイレや休憩所など、働く環境の整備に力を入れているそうです。
コミュニケーションから生まれる美味しいメロン
そんな中山農園では、社員のコミュニケーションが活発なのだとか。
「毎年収穫後に、社員全員で『どこが美味しかった』『もう少しこうしたほうが良かった』という反省会議のようなものをおこなうのが恒例になっています。また、話し合いの中で時期にあった品種を選ぶなど、より美味しいメロンを追求しています」(中山代表)
栽培における注意点などのナレッジの共有はもちろん、社員間の意見交換により、美味しいメロンづくりにもつながっているようです。
世代や国籍を超えてともにメロンづくりに励む中山農園の社員
静岡県などでは青肉メロンが8~9割であるのに対し、他県との差別化を目的に北海道では赤肉メロンの生産が主流となっていますが、中山農園では一部青肉メロンも生産しています。
「7月上旬~中旬・7月下旬~8月上旬といったように、毎年期間を分けて5種類のメロンを生産しています。今年は7月下旬~8月上旬にオルフェという品種の青肉メロンを出荷予定です。時期や環境にあったメロンを選んで生産することで、いつ食べても美味しいメロンを目指しています。基本的には赤肉メロンを中心に生産していますが、他県では気温が高すぎて、青肉メロンの生産量が落ちているということもあり、現在は青肉メロンも生産しています。また、周辺農家は出荷先が農協のみであるのに対し、弊社ではBtoB、BtoCとさまざまな顧客を対象としています。そのためほかの農家と比べると市場の動向に敏感だったり、お客様の声を反映させられたり、メロンづくりに活かせていることが多いと感じます」(中山代表)
中山農園では100メートルハウス86棟、露地メロンを含め17haの農園で年間約8万玉のメロンを生産しています。ハウス部分の土地の広さだけでいえば、道内でも指折りの大きさで、さらに毎年のようにハウスを増やし、成長しつづけています。
メロンの収穫の様子
勉強会が市内農家を結びつけるハブの役割に
社員へのケアから、美味しいメロンづくりのための情報収集まで、日々の努力が中山農園の成長につながっていることがわかりました。その一方で、ふるさと納税でどのような影響があったのでしょうか。
「ふるさと納税以外の注文は予測がつかない中生産していますが、ふるさと納税では12月に多くの注文が入るため、その後7月からの出荷のシミュレーションを組むことができ、販売計画を立てることもできるようになりました。これによって、販売先との交渉がしやすくなったり、安心して生産することができたり、寄付者へ良い物を届けようというモチベーションにもなっています。また、さとふるが事業者向け勉強会を実施してくれたことで、市内農家と交流・意見交換することができました。さらに寄付者からの問い合わせ対応はさとふるがやってくれるため、農作業や発送に集中できるという点は助かっています」(吉崎さん)
2024年に実施された事業者向け勉強会の様子
富良野市 小國さんによると、勉強会で市内農家が一堂に会することで、団結力が高まったそう。中でも中山農園はほか農家を引っ張ってくれる存在であり、中山農園のような手本となる農家を紹介することで意識改革につなげられるという効果も見られたのだとか。
「さとふる」では2019年から富良野市の取り扱いを開始しましたが、2023年はとくに寄付額を伸ばすことができたことについて小國さんはこう答えます。
「ふるさと納税は特産品のプロモーションや自主財源・販路の拡大という大きな目的があり、その目的を実現するためにさとふるにサポートしてもらっています。2023年はとくにさとふるの営業さんから『メロン』に注力するようアドバイスがあり、メロン農家への在庫確保だけでなく、出荷体制の見直しや管理方法の効率化など、内部まで介入があったことで大きく寄付額を伸ばすことができました」
これまでも人気が高かった富良野メロンですが、「さとふる」の2023年メロンカテゴリランキングで初めて1位を獲得、さらにトップ5のうち3品が富良野メロンという結果になりました。レビューでは「大きい」「甘い」「ジューシー」と好評で、多くの声が寄せられています。
中山農園の富良野メロンはレビューの評価も高い
10年前から取り組む「農業担い手事業」に新たな流れが生まれる
ふるさと納税の影響もあり、ますます活気にあふれている中山農園。そんな中山農園がある山部地区は、全国のメロン産地の中でも若い後継者が多いことが特徴なんだそう。全国的に農業の高齢化・後継者不足が課題となっている今、どういった要因があるのでしょうか。
「山部地区のメロンづくりは技術力が高く、品質にも定評がある。だからこそ、若い人が来てくれるのではないかと思っています。加えて、近年は富良野市の取り組みにより、熱い想いを持った若者が集まってきています」(中山代表)
50年以上前から続く産地であることから、経験値の高い農家が切磋琢磨しながらメロンづくりを続けていること、さらにその高い技術力を求めて他地域から新たにメロンづくりに携わる人が増えるという相乗効果により、一大産地を生み出していると考えられます。
「富良野市では2014年3月に農業の担い手不足を重点課題に位置付けたことをきっかけに、2017年には『農業担い手育成機構』を設立しました。これまでも農業担い手対策に取り組んでいましたが、新規参入者や親元就農者の就農支援、農業従事者の確保と育成を一元的に行い、将来にわたって富良野市の農業振興、活力ある農村の形成に寄与する人材を確保していこうとするものです。新規就農者向けに、住宅・資金の支援や教育プログラムの提供をおこなっており、道内では富良野市が先駆けて取り組んでいます」(小國さん)
新規就農者の中には、プログラムを終え独立して農家になり、ふるさと納税のお礼品を出品している人もいるのだとか。「農業担い手事業」にはふるさと納税の寄付金も多く充てられており、2022年活用実績においては10,000,000円の寄付金が活用されました。農業の担い手を増やす事業に寄付金を活用して、その結果新たな就農者によって魅力的なふるさと納税のお礼品をつくることができ、さらに寄付を集めることができるようになる、良い循環ができ、かつ次の世代につなげることができる素晴らしい取り組みに発展しています。
富良野市の魅力発信に寄付金を活用
そのほかにも富良野市では2023年度にもさまざまな事業に寄付金が活用されました。富良野市では5つの分類とその他からふるさと納税の使途を選ぶことができる
「富良野盆地に降り積もる雪はふわふわ・サラサラで、世界的にも非常に優れた雪質だと言われています。水分量が少なく踏むとキュッキュと音がする、まるで片栗粉のような雪で、『パウダースノー』と呼ばれています。プロジェクトでは、2023年から新たに雪質の良さをより分かりやすく伝える『ふわサラ度』の予測が始まりました。数値が50以上の時に降ってくる雪が『パウダースノー』であると仮説を立て、実証実験を行っています。
予測数値を提供することで、ゲレンデのコンディションの目安にすることができることはもちろん、数字でよりわかりやすく雪質の良さをPRすることができると考えています」(小國さん)ふわふわ・サラサラが魅力の富良野の雪
「富良野メロン」を筆頭に魅力的なお礼品誕生に期待
日本一のメロン農家を目指している中山農園では、メロンはもちろん、とうもろこしやかぼちゃなど、栽培品目を増やすことも検討しています。それに伴い、日本人・外国人ともに雇用を増やすことを目指しています。
2023年に富良野メロン人気が爆発した富良野市ですが、中山農園をはじめ、力のある農家がさらに成長して魅力的なお礼品がたくさん登場することが期待されます。