イエローキッチン 障がい者の就労支援施設
株式会社イエローキッチン 代表取締役 施設長 長崎 由美さん
障がいを持った娘が自立して生活できるよう、支援する施設を造りたい。イエローキッチンは、そんな母親の想いを込めて開設された就労継続支援施設です。安心できる材料を使って丁寧に手作りしたカレーやハンバーグで、家庭の味を届けます。
自閉症の娘のために自立支援の施設を開設
佐賀県唐津市の株式会社イエローキッチンは、様々な障がいを持つ利用者が働く就労継続支援施設です。利用者は現在13人で、カレーやハンバーグなど家庭の味そのままの料理を作り、レトルトパックで販売する仕事をしています。
イエローキッチン代表取締役で施設長の長崎由美さんは、小児自閉症だった娘さんの自立を支援したいという想いから、2015年にこの施設を開きました。
「娘が養護学校を卒業する時、地域に就労継続支援施設が少ないとわかりました。また、地域の施設はほとんどが農業関係で、工賃もすごく安いのが普通でした。そこで農業よりも自立につながる作業をしながら、いくらか多く工賃を得て生活できるような施設を造りたいと考えました」
長崎さんは、自立のためにはまず、自分が食べるものは自分で作れるようになる必要があると思いました。また農業は天候に左右されますが、室内の仕事はそうではありません。そこで、室内で料理をして食品を製造する仕事なら、もっと自立を支援できると考えました。「親として、火や包丁を安全に使えるようになることが自立のために一番大切だと感じたのです。」(長崎さん)
食品を製造、販売する際には、できるだけ食べ物を無駄にしなくて済むよう、レトルト食品を製造することに決めました。レトルト食品は賞味期限が長く、日々の製造量で調整も効きます。そこでレトルト食品を製造できる釜を探し、比較的小さな釜から事業を開始しました。
施設の利用者は当初、2人だけでしたが、次第にその数が増え、皆で作業を分担できるようになりました。レトルト釜に一度に入る量は30食で、1日に60~90食を作ります。「高額な釜を購入できれば、もっと作れるようになりますが、手の届くところから始めることにしました」。
仕事を通じて自立し社会とのつながりを持つ
イエローキッチンでは、商品を通して、社会とのつながりを持ち、自立につなげている
イエローキッチンでは、一般家庭で使う調味料を使いながら、家庭と同様の方法で1つ1つ、丁寧に手作りでお礼品を作っています。人気商品のイタリアンキーマカレーのレシピは、長崎さん自身が家で作ってきたお母さんの味です。昔、お店で食べて「おいしい」と思ったカレーに近い味を出そうと、自分で工夫して作ったレシピです。
水は使わずに食材だけを煮込み、旨味を凝縮させていきます。「家族に食事を作る時と同じように、素材も安心なものを提供したい。」そんな思いから素材の野菜や肉などできるだけ国産にこだわっています。このカレーは唐津市で開かれた「第5回カレーの王者決定戦in唐津2016」で、参加15店中2位になるなど高い評価を得ています。
商品の製造では、危険を伴わない作業であることをきちんと確認しながら、ほとんどの作業を障がいを持つ利用者が手分けしています。食品を扱う仕事のため、健康管理や衛生面でのチェックもしっかり行い、意識してもらう習慣をつけることも、自立を促す一つの機会だといいます。
「毎日、同じ作業しかできない人もいますが、違う作業もできる人には1日ごとに違う部分を担当してもらうなど、工夫をしています。効率よりも、利用者ができる作業を1つずつ増やしていくことが大切だからです」
利用者は慣れてくると腕が上がり、速く作業できるようになっていきます。例えば、10粒のニンニクをみじん切りするのに最初は半日かかった人たちも、今は20~30分でできるようになりました。
「食べることは好きな人が多いですから、料理は他のことよりも興味を持ってできると思います。一般の人と100%同様に自立するのは無理でも、仕事を通して、社会とのつながりを持ちつづけてもらうことが自立につながると考えています。」
イエローキッチンは小規模な施設で開設からまだ3年程度ですが、自立して就職した人も1人出ています。障がいがあってイエローキッチンに利用者として入り、仕事を覚えて自信が付いたことが、一般就労につながったそうです。
寄付者の声が利用者の励みに
イエローキッチンの商品は県内のイベントや店舗で販売されていますが、2016年からは唐津市のふるさと納税のお礼品にも採用されています。これによって県外から多くの注文が来るようになり、売上が大きく増えました。
販売による利益はすべて分配し、従来は月額13,000円程度だった工賃を23,000円(月に20日勤務)程度に上げることができたそうです。
ふるさと納税の寄付者からは、「おいしかった」という電話がかかり、そのまま注文が入ることもあります。自分達の仕事が誰かの笑顔につながっているということは利用者のやりがいや、自信につながっています。
また、以前は自社HPからの注文はほとんど入ることがなかったそうですが、ふるさと納税のお礼品としてイエローキッチンの味を知った寄付者が、HPから直接注文を行う機会も増えたそうです。
ほとんどの就労継続支援施設にとって、商品の販路を拡大し、売上を伸ばすことは難しい課題となっています。このような中で、ふるさと納税のお礼品への採用は、イエローキッチンが県外の消費者とのつながりを増やしていくための大きな機会を生み出しています。
イエローキッチンでは今後、OEMも取り入れ、新しい商品の開発や製造に取り組もうとしています。その際、できるだけ地元の食材を使っていきたいと言います。また、同じ地域にある他の支援施設とも連携し、一緒に伸びていこうとしています。