酪農家・チーズ工房《ナカシマファーム》の未来を見据えた働き方
ナカシマファームは佐賀県嬉野市にある酪農家で、酪農を中心に、米・麦・大豆・飼料稲栽培、チーズの製造を行っています。ナカシマファームに到着してまず目を引くのが、真新しいチーズショップです。こちらは今年春にできたばかりの工房で、現在、3代目として牛たちの世話やチーズ作りの責任者となっている中島大貴さんをはじめ、DIYでつくったとのこと。チーズ作りも、店舗の増築も、はたまた今後のまちづくりまでも、頭の中に未来予想図があるという中島さんに、ふるさと納税の活用方法や今後の目標を聞きました。
将来のビジョンが着実に想像以上のスピードで実現
中島さんは9年前に関東の大学の建築学科を卒業後、地元の嬉野市に戻り、家族の農業の手伝いを始めました。経験値ゼロから就農して、6年前にチーズ工房を建てた当時から、将来のビジョンがあったとのこと。脳内には、大学で建築やまちづくりについて学んだ経験もあり、酪農業、建築、都市の在り方など、様々な要素を勘案した複合的な将来のイメージができているそうです。
ナカシマファーム 中島大貴さん
春にできたチーズショップの中で
春にできたショップもその中のひとつで、6年前にチーズ工房を建てた際に、増築をできるように当時から想定していたとのこと。それがふるさと納税を通してたくさんの注文が入り資金が集まった結果、いま目の前に現れたといった次第です。
工房のデザインから設備にいたるまで自らすべて設計し、建築過程では、電気や水道工事を専門会社に任せた以外は家族で建てたそうです。脳内にある理想の形を低コストで実現するチャレンジの精神と建築学科の経験を生かした確かな技術があるからできることなのでしょう。
店内には、敢えてショーケースを置いていないのも特徴的。設置しない理由は「お客様の目線が下がってしまう」ためです。せっかく店舗に来てくれたお客様とはしっかりと目を見て話をして、希望に合うものを奥の冷蔵庫から出してプレゼンテーションをして、購入するものを決めてもらうという贅沢なサービスを提供しています。
ナカシマファームはこだわりぬいたデザインや製法で、家族経営を続けてこられました。ふるさと納税でたくさんの注文が入り、月に何百ものチーズを出荷している一方で、1日あたりの製造量に限りがある点が課題でした。しかし、ふるさと納税で設備拡大の資金を捻出することができ、今年の5月末には新しいチーズの製造タンクを購入することができたそうです。
さらに、増えたのは設備だけではありません。これまで家族で作ってきたチーズでしたが、新しく「チーズづくりを学びたい」という、願ってもない人材が現れたそうです。現在は、中島さん家族に加え、新しいスタッフさんとともにチーズをつくっています。
人材と設備が二軸でパワーアップしているナカシマファームは、今後さらに成長していきそうです。
ナカシマファームのチーズセット
ふるさと納税を通して技術の向上やパッケージ開発などが可能にし、新たな挑戦の機会を創出
ナカシマファームのふるさと納税の活用の仕方を伺うと、ふるさと納税サイト「さとふる」の仕組みをうまく活用したものでした。ナカシマファームはふるさと納税が始まる前から、独自でオンラインショップを運営していましたが、オンラインショップと「さとふる」でのふるさと納税では、決定的に異なる点があるとおっしゃいます。それは、「さとふる」経由で注文が入った場合は、宅配会社が、すでに寄付者である注文者の名前が入った伝票を持参して集荷にきてくれる点です。「さとふる」のこのシステムにより、配送以外の、品物自体の魅力の向上に注力できるようになったそうです。
例えば、自らデザインしたナカシマファームのオリジナルのギフトボックスです。ふるさと納税の活用で配送の手間やコストが抑えられ、その分、お客様をいかにワクワクさせるか、喜んでもらうかということに使っています。そのほか、ナカシマファームオリジナルの「のし」も新しく作成。
こちらは牛乳瓶をイメージさせる「のし」で、先日父の日ギフトとして使用を開始したほか、今後、お中元やお祝い事でも活用を検討しているそうです。
新しく作成した「のし」が付いたギフトボックス
さらに、ふるさと納税での人気が高まったことで、注文量が増え、ふるさと納税を開始する前に比べてチーズの生産量が増えました。その結果、チーズ製造の工夫やアレンジなど、商品開発、改善の挑戦をする機会が増えた点も、ふるさと納税を開始したメリットのひとつだそうです。
「さとふる」内のナカシマファームのチーズのお礼品ページには、たくさんの寄付者のレビューが書き込まれています。そのほか、直接店舗へ手紙が届いたり、チーズを食べる方々の生の声に触れる機会が増加していたりと変化が生まれており、この点も新商品の開発や新たな取り組みの挑戦のきっかけとなっているようです。
実際にナカシマファーム宛てに届いた手紙
新たなオペレーションや取り組みのテストをしてみたい時でも、実際に注文をして、反応をくれる人がいなければさらなる改善につなげることができません。ふるさと納税がそんな中島さんたちの挑戦の機会の一つとなっているようです。
酪農業をきっかけとしたまちづくりで、観光客を誘致したい~嬉野市のまちづくりへの意欲~
大学時代に建築とまちづくりを学んでいた中島さんが思い描く目標は、チーズづくりだけにとどまらず、嬉野市のまちづくりにまで及びます。自社のオンラインショップやふるさと納税を通して、嬉野市にあるナカシマファームについて知ってくれる人は増加しているものの、実際に嬉野市まで足を運ぶひとはまだ少ないというのが実感だそうです。それを「どうにかしたい」との中島さんの今後の夢は、チーズの熟成庫や乳製品関連の工房やショップを嬉野市内に点在させることです。
「より美味しいチーズをつくるためにはそれぞれのチーズに適した熟成庫があるといいんです。そういった乳製品の工房を集落の中に点在させたいですね。またそこに公園のような機能を持たせたり、飲食店の機能を持たせたり、人が立ち寄ったり廻ったりできるようにしていきたいです。それによって働く場であったり、遊びの場であったり、癒しの場を生み出し、酪農を通して地域を支える役割を担いたいと考えています。」
このような地域に手仕事を残す、美味しいものを生み出す取り組みを通して、結果として観光客にとっても魅力のあるまちにしていく。酪農業・チーズづくりをきっかけに、地域の住民の生活までも変えていく可能性を抱く、ナカシマファームの大きな目標に今後も注目していきたいです。
ナカシマファームの皆さま
店舗の前で